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天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ (6) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 6 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

グリュエール王との取り引きで、不凍港を使う権利を得たウェインだったが肝心の貿易相手に恵まれないウェイン。新たな取り引き先確保のため、南の島国へと足を運ぶことになるが、一国の命運を賭けた争うに巻き込まれることとなる。

感想などなど

グリュエール王……敵ながら天晴れという他ない。今回の戦争は、グリューエル王とウェインとの戦いというよりは、デルーニオ国のシリジス宰相とウェインとの戦いという側面がメインなのだろうが、如何せんグリュエール王の印象の方が強い。

その巨漢を持って自ら戦場に赴き、それでいてとてつもなく強い。たとえ負けたとしても、その権威を失墜させることなく、ウェインと取り引きを持ちかける豪胆さは王としての器とは何たるかを考えさせてくれる。

結果としてグリューエル王の治めるソルジェストと、ナトラは友好関係を築くに至り、不凍港での貿易を行う足がかりを手に入れた。ただこれまで帝国の品物を西側に流し続け、利益を上げていたナトラと進んで貿易をしようという国が現れなかった。

西側は帝国と敵対していること、ウェイン王子の最近の活躍を鑑みても、そのような結果になることは想像できた。不凍港を使う際には、船や乗組員を使う維持費をグリューエル王に納めている。その維持費を超える収益を貿易で稼げず、ただ赤字だけが積み重なっていく状況を打開すべく――グリューエル王の案というのは不安材料だが――大陸南端にある海洋国家パトゥーラとの会談を通して、交易を進めるべく行動を開始する。

まずは船で南の島へ……ただ島へと着陸する前に面倒な事件に巻き込まれることになる。

 

国を統治する者が恐れているもの――それを挙げていけばキリがない。

どんなに権力を持っていようとも、国民に反乱されようものなら国は潰れる。武力で制圧したとて、民のいない国は国ではない。国のトップという魅力的な立場を狙う者は多く、権力争いにより命を失った王は数知れない。

帝国も、次期皇帝争いが起きている。そして、海洋国家パトゥーラでも権力を巡る争いが起きていたのだ。それにウェインも巻き込まれていくという訳だ。

具体的にウェインがやって来た時に島で起きていたことを説明しよう。現国王、正確には海導と呼ばれているザリフ家の長アロイ・ザリフが、海賊によって殺害された。その混乱の中、アロイ・ザリフの長男レグル・ザリフが船団を率いて島を瞬く間に占拠。そこにノコノコやって来たのがウェイン達御一行だ。

レグルはナトラから使節団が来ることを知らなかったため、金を巻き上げられそうなウェインを捕縛し牢獄へ。その時、隣の檻に入れられていたアロイ・ザリフの次男フェリテ・ザリフと共に(優秀なニニムの手助けもあり)脱獄し、島を取り返すフェリテと手を組むことで、いよいよ本格的に島での闘争に巻き込まれていく。

メインはフェリテとアロイによる主導権争いが本筋だ。ウェインはあくまで補佐という立場であるものの、彼の能力の高さを嫌と言うほど見せつけられることになる。

 

海洋国家パトゥーラで主導権を握る上で大切なのは、とある秘宝の存在だ。その秘宝の名は、虹の王冠。色とりどりに宝石のような輝きを放つ大きな貝であり、これまであらゆる竜巻や災害を予知し、国を守ってきたとされている。

しかし貝にそんな力はない。代々ザリフ家が、その力を誇示し周囲に示すため、虹の王冠の力があるように喧伝し続けた。結果、この王冠を持っていることが国のトップとして君臨するために必要なものとなっていた。

そのため、次期海導となりたいレグルは躍起になってそれを求めた。レグルにとっての弟であるフェリテを牢獄に閉じ込めていたのは、虹の王冠の場所を吐かせるためだった。

はっきり言ってウェインの立場からすれば、ザリフとフェリテのどちらに味方しても問題はない。フェリテと共に脱獄したが、フェリテを縛り上げてザリフに届ければ、それなりの関係をザリフと築けるだろう。

しかしウェインはフェリテと手を組む道を選んだ。その道が吉と出るか、凶と出るかは、これからの戦い次第となる。

 

これまでの戦闘とは違い、今回の戦場は海の上が中心となる。帆船は波や風を読むという特殊な力が必要になる。不凍港を持たないナトラ国の王ウェインは、その力は劣ると言わざるを得ない。

しかし、その劣りを感じさせないウェインの策略は、正しく天才王子だった。フェリテが大事に保管していた歴史書、海に関する膨大な資料を紐解き、打ち立てた作戦は圧倒的に不利な状況をひっくり返すだけの力となったのだ。

これまでとは打って変わった状況と舞台であるからこそ、新鮮な気持ちで読むことのできる戦争であった。

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