※ネタバレをしないように書いています。
オグリキャップの物語
情報
作者:久住太陽
試し読み:ウマ娘 シンデレラグレイ 4
ざっくりあらすじ
日本ダービーがいよいよ開幕。オグリキャップの運命は如何に? そして、中央でのオグリキャップに近づく、最強の白い稲妻の正体とは……。
感想などなど
皐月賞は最も速いウマ娘が勝つ。
菊花賞は最も強いウマ娘が勝つ。
日本ダービーは速いのでもなく、強いのでもなく、最も運のあるウマ娘が勝つ。
多くの人がその光景を見たいと思い、シンボリルドルフでさえも願ったオグリキャップの日本ダービー出走。第四巻はそんな日本ダービーから始まっていく。ウマ娘達が今日、この日のために勝利を積み重ねてきたと言っても過言ではない。そんな集大成と呼べるレースに……オグリキャップの姿はなかった。
オグリキャップは同時期に開催されていたGⅡ『ニュージーランドトロフィー』にて、七馬身差という圧倒的な力を見せつけて一着。そのレースを見に来ていたシンボリルドルフは、どうしてもオグリキャップが日本ダービーに出ていたらという想像を重ね合わせる。
まるでオグリキャップが日本ダービーに出ていたら……そんな想像を掻き立てる演出と共に、日本ダービーはサクラチヨノオーの一着で幕を閉じた。
彼女の出走を、協会は認めなかった。ダービーの直前に「ダービー出走にはクラシック登録が必要」という規則を変えるのは、最も尊重すべき公平性を欠くとのことらしい。
しかし、協会は何年かかってでもルールを変えて、クラシック登録をしておらずとも出場できるようにすると約束してくれた。これは大きな一歩ではないか。いつか未来に、多くの人の夢を乗せたウマ娘の『夢』のために。そんな希望を語るシンボリルドルフの台詞のワンカットに、ルール改正の恩恵を受けて、クラシック制覇を成し遂げたテイエムオペラオーがいるのが憎い演出だ。
オグリキャップが巻き起こした一大旋風は、ウマ娘の世界を確実に動かした。それだけは揺るぎない事実であり、これから先もその脚と共に、スターとして活躍を見せつけてくれるであろう。
相変わらず、紙面では『芦毛の化物』とか書かれてるし。オグリキャップは何気にその文言を気に入っているし。
しかし、彼女には次の目標が分からずにいたようだ。日本ダービーを目指すと啖呵を切ったと思えば、クラシック登録で出られないという事件がつい先日あったばかり。あれよこれよとGⅡに出場し、圧倒的な力で一着をかっさらっていく彼女にとって、目標を見つけるということは難しいのかもしれない。
そんな彼女の背中を押したのは、カサマツで競い合った仲間フジマサマーチだった。
「お前が走るレースを最高のレースにすればいい」
「日本一のウマ娘になれ オグリキャップ」
そんなオグリキャップ。秋の天皇賞を見据え、GⅡでの勝利を積み重ねていく。たとえGⅡといえど決して楽な勝利ばかりはできない。ここ最近、五連勝やクラシック登録騒ぎで注目されている彼女が、誰にもマークされない訳がない。
GⅡ、毎日王冠。ときに「スーパーGⅡ」とも呼ばれ、GⅠをも凌駕するレベルになるとされるGⅠ戦線を占う前哨戦。
そんなレースで、自分を除く10人全員にマークされることとなる。絶望的な状況を打開できなければ、秋の天皇賞には出さないと六平さんは言う。そんなレースに勝つための作戦は――
「誰にも触れられない位置を走れ」
単純で分かりやすい作戦は好きだ。だが、外を走るということは、より長い距離を走らされることを意味する。それはそれだけ消費される体力が大きい。どのウマ娘も最高速で突っ込んでくるラストの直線で、力を出せないというのは致命傷だ。
そんな六平の作戦など、他のウマ娘も折り込み済みである。外を走ろうとするオグリキャップの行く先を横一列に並んで遮る。示し合わせた訳ではないだろうが、考えることは皆同じということである。
それでも最後に『最高のレース』にしてくれるのが、『芦毛の化物』にして、頂点を目指すウマ娘に相応しい。オグリキャップの良さが詰まったレースに、これから戦うことになる『白い稲妻』タマモクロスの良さも詰まった物語であった。