※ネタバレをしないように書いています。
殺したぐらいで、俺が死ぬとでも思ったか
情報
作者:秋
イラスト:しずまよしのり
試し読み:魔王学院の不適合者 9 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜
ざっくりあらすじ
《創星エリアル》により失われた記憶を取り戻していく中、突如として「わたし、破壊神アベルニユーだわ」と言い出すサーシャ。その真意を確かめるべく、世界各地を行き来する内に、神に宣戦布告を受けてしまう。
感想などなど
因縁の敵グラハムの《虚無の根源》を、自身の《破滅の根源》で包み込むことで勝利したアノス。父の無念も晴らし、父の魂は巡り巡って今の父になっているという事実を知った時、思わず涙腺が緩みました。ラストは良いシーンでしたね。
さて、最終巻と言われても差し支えない第八巻も終わり、第九巻へとまだまだ続いていきます。これを読むと、「あぁ、まだ解決していない問題があったな」と思い返されます。
ざっくりあらすじでも書いた通り、破壊神の存在。そして、それと対をなしている姉のような神・創造神の存在のことです。そもそも創造神が《創星エリアル》を作っていたようですし、これまでの一連の騒動に、少なからず神達が噛んでいることは言うまでもないでしょう。
冒頭では創造神とアノスのかつての会話が描かれる。
「あなたは、彼女(=破壊神アベルニユー)を救ってくれた」とミリティア。
「救ってなどいない。問題を先送りにしたにすぎぬ」とアノス。
とアベルニユーが秩序を破壊する城として形を変えたことを語り、それを救いと表現するミリティア。さらに、
「彼女は、恋をしたから」とアノスに告げるミリティア。魔族として転生しても、アベルニユーは再びアノスに恋をすると彼女は語った。
そしてアベルニユーが魔族に転生した際の名前も、この時点で二人で話し合って決めていた。
その名前はサーシャ。
サーシャ・ネクロンがアノスのことが好きである。これは自明であろう。
第一巻を思い返してみよう。いきなりアノスにキスをした女性は誰だったか? それがファーストキスだった乙女は誰か?
第一巻の戦いを終えた後も思い返していこう。アノスが別の女性と良い感じになるたびに顔を赤らめている女性は誰だったか? 酔っ払うとアノスに甘えたがる女性は誰だったか?
この第九巻まで読んできた方々には説明するまでもない。
そんなサーシャが酒を飲み、少しばかり眠った後、唐突に「わたし、破壊神アベルニユーだわ」と言い出した。酔っ払いの戯言かと思われたが、彼女の言動には一貫性があった。アノスの記憶との差異がない、アベルニユーの記憶の一端としての辻褄の合致が。
例えば。
アノスは《破滅の根源》という滲み出た少しの根源で、周辺が滅びてしまうという危険なものだ。しかし、最近になって根源を使い過ぎたことで、《破滅の根源》を抑えることが難しくなっていた。サーシャはその《破滅の根源》の中で暴れている力を自壊させることができるのだという。
さらに記憶を取り戻していくと、アベルニユーは神話の時代には、空に浮かぶ太陽の中にいたのだという。そこから周囲を見渡すだけで、破壊を振りまく破滅神として君臨していた。そんな太陽にたどり着き、アベルニユーに初めて声をかけた人物がアノスだった。
そしてアベルニユーに感情を与えた。
そしてアベルニユーに恋も教えた。
徐々に明かされていくサーシャの前世、アベルニユーが感情を取り戻していく物語。ただそれだけでも十分に面白いのだが、物語は予想外の方向へと展開していく。
アベルニユーが残した痕跡を辿り、舞台は神界へと移る。そこに待っていたのは、これから生まれようとしていた神ウェズネーラ。何の秩序を司るかも分からない。しかし、それは創造神ミリティアも絡む、世界の命運を賭けた戦いの幕開けでもあったのだ。
創造神ミリティアがこの世界を作った。今アノスのいる世界は、彼女が作りたかった世界になったのだろうか。創造神とはいえ、世界を思い通りにできる訳ではない。彼女はただ生み出しただけ。
それでも彼女は、自分が目指した世界のために、彼女ができるだけのことをした。
その彼女の生き様が、ここから先で描かれる物語なのではないだろうか。そしてミリティアの信じたアノスという男は、最後にはやってくれる男ということを信じて、第九巻を読み進めていただきたい。