工大生のメモ帳

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キノの旅Ⅴ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

世界が美しく感じられる

情報

作者:時雨沢恵一

イラスト:黒星紅白

ざっくりあらすじ

喋れるモトラド(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)エルメスと共に、世界を旅するキノの物語。

「あの時のこと」「人を殺すことができる国」「店の話」「英雄達の国」「のどかな国」「予言の国」「用心棒」「塩の平原の話」「病気の国」

感想などなど

「あの時のこと」

少年の時の思い出といえば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。さて、その思い出は、はたしてあなただけの思い出なのでしょうか? あなたが心に残っていることは、誰かにとっても思い出として残っているのかもしれません。

 

「人を殺すことができる国」

日本では殺人が認められていません。当然ですね。もしあなたが人を殺そうものなら、警察による厳しい捜査が行われ、捕まれば法律によって裁かれるのです。たとえどんな理由があろうとも、人を殺したという罪は償わなければいけないのです。

さて、本作に描かれる国では『人を殺してもいい』のです。

……この文言を聞いてどんな国ができあがると想像しますか?

血肉が散らばり、腐卵臭が漂い、命が軽く扱われる国……そんな様子を想像したのではないでしょうか。自分もそんな感じです。なにせ『人を殺してもいい』のですから。

しかし、本作を読み進めてみれば、かなり紳士的な国が描かれています。はて、これはどういうことなのでしょうか。『人を殺してもいい』のではないのでしょうか。

 

「店の話」

ブログ開始1日目:ブログを開設しました。これから楽しいブログライフが始まるのかなと思うと、期待に胸が膨らみます。

ブログ開始2日目:投稿した記事に対するアクセスがありません。もしかすると、この世界には自分しかいないのかな? と思うほどに誰もやってこないのです。おかしいですね、デザインも工夫し、文章もそれなりに読みやすく書いているつもりなのですが。もう少し粘ってみようかな。

……。

ブログ開始100日目:やった! アクセスが1あったぞ! さて、この記事を見てくれ! そうだ、そうだぞ。この記事で紹介するのは「キノの旅Ⅴ」というライトノベルだ! ……えっ、ちょっと帰らないでくれ。ほら、もっとたくさんの本を紹介しているぞ。そうそう、きっとあなたの気に入る作品や記事が一つくらいあるって……ね? 頼むよ、そこを何とか。

この出会いも何か運命さ。このページを下に下に下がっていくと、Twitterのフォローボタンがある。それを押してくれれば毎日投稿される記事を確認することができるんだ! なんということだろう、感動と驚きで手が震えてくるだろう? さらに読者登録なんてしてくれた日には、あなたも僕もハッピーさ。間違いないね。これは互いにWIN - WINの関係性だと言えないかい。あなたの行動一つでこの悲しき男を救うことができれば、酒の席で自慢だってできるかもしれない。人一人を幸せにしちまったんだってな! これであんたも人気者さ。

……え、話が長い……? ちょっと待ってくれ。

……おかしいな、ブログのアクセスを増やすためには『Twitterのフォロー』と『読者登録』を促せって聴いたんだけどな。あと本題に入らず記事を長引かせれば、字数とサイトの滞在時間を延ばせてGoogleからの評価も高くな……あぁ、気にしないでくれ。何もないよ、何もね。気にせずに『工大生のメモ帳』を見て回ってくれ。

 

「英雄達の国」

同タイトルで二つの短編が描かれているので、この項目では二つの短編を紹介するということになる。無論、タイトルが同じということには理由があるし、キノの旅にしては珍しく繋がりがある。一つずつ見ていこう。

まず一つ目の「英雄達の国」ではパースエイダー(拳銃)を片手に、突如襲ってきた男達と戦う話が描かれている。コロシアムでは無敗を誇った彼女も、今回の敵には苦戦している模様。

まず地の利が圧倒的に相手の方がある。数的有利も相手だ。武器の数だって、全然違う。しかし、これまで数多くの死線をくぐり抜けてきたキノはそう簡単に負けない。敵側視点も時折挟まれるのだが、最後の絶望感は見物である。

次に二つ目の「英雄達の国」について。これはパースエイダーをこよなく愛する人々が治める国でも話だ。キノの銃の腕に惚れ惚れする人々。珍しく褒められるキノの姿を見ることができる。

さて、では人々は何故パースエイダーを愛するようになったのか。国にはそれぞれに歴史がある。とある人が語ってくれる歴史と、一つ目の「英雄達の国」の話が繋がるとき悲しき物語が明かされる。純粋に構成が上手い作品だった。

 

「のどかな国」

『キノをつけ回すロリコンストーカー』ことシズが訪れた国は、それはそれはのどかな国だった。自分が住む国を探している彼は、この国でただ畑を耕すだけの日々も悪くないなと考えている最中、事件は起こった。

一発ネタです。のどかな国でした。

 

「予言の国」

ノストラダムスの予言ってありましたよね。1999年に世界が滅亡するという奴です。その予言が的中したかどうかは皆さん御存知ですよね。そうです。的中していたらこうして記事越しに皆さんと会うことも叶わなかった訳です。

本作もそんなノストラダムスの予言をモチーフにして皮肉っているような気がします。残念なことにノストラダムスに予言された1999年に、自分は地面をハイハイしていたので詳しいことは知りませんが、似たようなことが現実でも起きていたのではないでしょうか。

キノが訪れた国では三日後に世界が滅びると予言されていました。それはびっくり大変です。急いでキノは店の品物を買い占めました。店員はどうせ滅びるから十割引きというので財布と相談する必要もありません。いつもはできない買い物に精を出すのでした。はい、めでたし、めでたし。滅びるつもりだった国が、滅びなかったことによる行く末を見ていきましょう。

 

「用心棒」

「人が死ぬということまで運命で決定づけられているならば、その死から逃れてはいけない」

そう言われて、あなたはどう考えるでしょうか。色々な考え方があると思います。

死から逃れてはいけないならば、立ち向かうのか。そうですね、そうかもしれません。

死にそうになれば諦めて死を受け入れるべきか。そうですね、そうかもしれません。

死にそうな状況にならないように、あらゆる対策を講じておけば良い。……そうですね、そうかもしれません。

色々な立場の人がいます。死とは対策できるものなのでしょうか、死はいつでもあなたの側に転がっています。

 

「塩と平原の話」

さて、商売を始めようという時に、大抵の人は仲間捜しから始めるのではないでしょうか。お金を融資してくれる人、会社を立ち上げた際の社員として支えてくれる人、アドバイスをくれる人、色々必要になると思います。

そして仲間達と切磋琢磨し合い、事業が大きくなるにつれて絆が芽生えて仲良くなる……この世の中はそう甘くはありません。仲を深めていくよりも裏切る方が、数億倍も簡単なのです。人の闇の部分という奴は一瞬で心を覆い隠すのです。暗黒面に堕ちた方が楽な場合もあるのです。

長々と語ってしまいました。法律は人を縛るものですが、人の自由を守るものでもあるのですよ。良かったですね、日本が法治国家で。

 

「病気の国」

キノが訪れた国は、入る前に徹底的に体や持ち物を洗浄される国でした。どうやら酷く潔癖のようです。内部はとうぜん埃も塵もなく、いわば無菌の世界です。

その国の人々は国外からやってくる旅人を受け入れ、話を聞きたがりました。虫を見たら気絶してしまいかねない彼らは、外に出たがらないようです。しかし、外の面白い話が聞きたい。その欲求はかなりのもののようです。

そんな人達の中で病気の少女がいました。徹底的に綺麗にする国でありながら、治すこともままならない病気にかかった少女は、外の世界に憧れていました。

国の外には国の領地を広げるための開拓民と呼ばれる人々が生活し、土地を耕し、日々を過ごしていました。少女の知り合いの少年が開拓民の一人として生活しており、毎月のように手紙を送り合っていました。それにより毎日の憧れは募り、キノに「将来は開拓民になる」と笑顔で語るのです。

夢っていいですよね。一種の呪いにもなりますが。

キノが国の外で見る開拓民の現実を知った時、少女の夢はどうなってしまうのでしょうかね。是非、読んで見て下さい。

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