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キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦11 感想

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作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

平和を願う気持ちは同じ

情報

作者:細音啓

イラスト:猫鍋蒼

試し読み:キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 11

ざっくりあらすじ

天帝ユンメルンゲンに招かれたイスカ達は、シスベルの灯の星霊を使い、百年前の帝国の様子を再現することに。そこに映し出されたのは、イスカの師匠クロスウェル、天帝ユンメルンゲン、そしてネビュリス皇国の建国者ネビュリス姉妹であった。

感想などなど

長かった、ここまで来るのに。この第十一巻を読んで思った素直な感想である。

あらすじでも書いた通り、この第十一巻で描かれるは、百年前の帝国で起きたことの全容だ。それは化物の姿となった天帝ユンメルゲン、ネビュリス皇国の建国者ネビュリス姉妹、イスカの師匠クロスウェル達の間で起きた悲劇と約束の物語でもあったのだ。

さて、百年前の物語はイスカの師匠・クロスウェルの視点で描かれていく。

彼は金のために帝国まで出稼ぎに来ていた平凡な少年であり、その際に一緒に住むこととなった知り合いが、ネビュリス姉妹であった。

……この時点で、ブログ主としてはかなりの驚きであったのだが、皆さんとしてはどうだろうか。まぁ、何となく互いに知っている相手という感じはしていたが、どちらかといえば因縁の相手としての印象が強い。

そこで描かれるイスカとネビュリス姉妹の様子は、過酷な出稼ぎの仕事――穴を掘ってエネルギーを集める――という舞台背景ではあったが、とても微笑ましく仲睦まじいものだった。

ネビュリス姉妹はイスカに好意を抱いているっぽいし、他人を傷つけることなんてできないような、とても良い子達なのだ。

イスカはイスカで、隠れて街に来ていた帝国の王子と親睦を深めていた。隠れて街に来ていた王子は、その身分を隠し、クロスウェルと接していく。ブログ主としては、「王子と乞食」という児童文学が思い返された。まぁ、あの作品のように、王子と乞食が入れ替わってしまうようなことはないのだが。

こうして登場人物が、同じ場所に集まった。

それは大変なこともあるけれど、幸せと将来への希望に満ちた時間だった。ネビュリス姉妹とイスカは、それぞれが夢を語った。金が集まったらどんなことをしようかと夢想した。

その幸せな時間を壊した黒幕は――。

 

クロスウェル達が掘っていた穴は、実は『星霊』という未知のエネルギーを掘り出すための作業だった。読者としてはその先にある戦争を知っているが、掘っていた彼らはそんなこと知る由もない。

この『星霊』によって、人々の生活がより明るくなる。『星霊』を掘り出せるところまで来たことで、特別な報償がたくさん貰える。これから先の生活に希望を見出した。

だがしかし――もう読者は知っている。その『星霊』によって、不思議な力を操る魔女・魔人という存在が現れるということを。掘るのを止めてくれと願っても、止まることはない。

なにせ彼らは希望を掴み取るために掘っているのだ。

そして迎える運命の時。吹き出した『星霊』は、そこで働いていた人々に降り注ぐ。さらに、『星霊』が吹き出す時を見に来ていた王子も体に浴びた。そこから先は、ものすごい勢いで絶望へと向かっていく。

魔女と魔人が生まれた。事件を起こした。そして人々の不安を煽るマスコミ。魔女や魔人を収監し、人権が奪われていく。その被害者の中にはネビュリス姉妹も含まれている。あれほど優しかった彼女達が、絶望していく様を、クロスウェルは間近で見ていた。

ここから始まる長い長い絶望、しかし希望は始まりにあった。

黒幕も分かった。ネビュリス姉妹の怒りも分かった。後はそれらを解決するだけ。

……まぁ、それが滅茶苦茶大変ではあるのだけれど。これまでの情報が整理され、はっきりとした目標が出来た11巻であった。

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