※ネタバレをしないように書いています。
ギャルゲヒロインとの日常
情報
作者:田尾典丈
イラスト:有河サトル
ざっくりあらすじ
最近、神楽咲の様子がどうにもおかしい。彼女を楽しませようとクリスマスパーティなど企画するが、いつの間にか世界から彼女の存在が消え、クラスメイト達の記憶からも失われていた。彼女のことを覚えていた仲間たちと共に、咲が向かったのだというアカシックサーバーへと向かった。
感想などなど
虚構と現実の区別をつけることは不可能だろう。蝶として空を飛ぶ夢から目覚めたとき、果たしてその蝶としての夢は夢なのだろうか? もしかすると、今いる現実は蝶が見ている夢かもしれないと大昔、中国の人が考えたように。今いる世界が現実であると保証してくれるのは神か? はたまた別の上位存在か?
ゲームからやってきた咲達はこれまで、自身が虚構から来た存在であるという事実に恐怖を感じつつも、都筑武紀とともに生きていくことを選んでいた。その理由は彼に対する愛の深さ故だろう。
現実世界とのギャップによる困難を、乗り越えることができた一番の要因は、何かと考えていくと、おそらく咲達自身が現実に残って都筑武紀と生きたいという意思があったからだと思われる。偽の父親騒動も、ゲームの主人公が干渉しに来たときも、選択権は全てヒロインにあった。都筑武紀から離れようと思えばできたはずなのだから。
この第五巻は、ゲームにおけるメインヒロインである神楽咲が、自らの意思で都筑武紀の元を離れていくエピソードとなっている。
都筑武紀から神楽咲に対する愛は、虚構ではないはずだ。現実である証明は、これまでの都筑武紀の行動が示してくれる。そのことは神楽咲自身が最も良く知っていることだろう。
だからこそ、なのだろうか。
ブログ主としては第四巻にて、ゲームの主人公・真田正樹と彼女がキスをした瞬間というものが、どうにもフラッシュバックしてしまう。まぁ、正確にいうなれば真田正樹の人格が入り込んだ都筑武紀と言うべきだろうが。
また、真田正樹が完全に現実に干渉するようになった後、カップルとして一緒に過ごすこととなった二人の間に何があったかは想像するしかない。キスくらいはしているだろう。高校生カップルだし。手繋ぎ程度で収まるとも思えないし。
第五巻は冒頭からして、神楽咲と都筑武紀との間に違和感が漂う。都筑武紀は第五巻のようなことがあった後だから、と納得し、時間の経過が解決してくれることを選んだ。その選択肢は決して間違いではなかっただろう。少なくとも最悪ではなかった。
とにかく咲を励ますという目的もあり、思い出を作るということもあり、クリスマスパーティなるものをクラスメイト達も巻き込んで開くこととなった。色々とレベルの高すぎるヒロイン達とのパーティは、きっとそれはそれは楽しいものになる……はずだった。
事件の起こりはそんなパーティ準備の最中であった。咲がこの世界から姿を消したのだ。クラスメイトの誰一人として咲のことを覚えていない。ネット上からも彼女の痕跡が消え失せた。ただ記憶の中だけに咲がいた。
調べを進めていくと、どうにも咲の意思で消えたとしか思えないことが判明していく。彼女が向かったのはアカシックサーバーという、現実から何かしらの理由で消えたゲームのキャラなどが集められた場所に行ったらしい。
当たり前だが人は三次元情報だ。サーバーという電子空間に行くことはできない……と思っていたが、良く考えると電子空間のゲームキャラが現実に来れるのだから、現実世界の住民も電子空間に行けるのは理にかなっているのかもしれない。
とにかく都筑武紀は電子空間へと飛んだ。
この第五巻では、これまで長々と語った咲のエピソードだけでなく「なぜゲームヒロインが現実に来れるのか?」という世界観の根底へと繋がっていくような情報も数多く開示されていく。
それに辺り、これまで巻き込まれた奇妙な事件の数々が、どうやら仕組まれたことであるらしいことや、ゲーム世界を現実に反映させるシステム「フェアリーシステム」の目的などにも触れていく。
ゲームのヒロイン達と生活していく上で、それらの問題というのは解決しなければならないことであろう。いつまでも無視することはできない。物語も締めに向かっているような終末感が漂う内容となっていた。