※ネタバレをしないように書いています。
二つの世界と二つの正義
情報
作者:賀東招二
イラスト:村田蓮爾
ざっくりあらすじ
海に突如として現れた異世界のゲート。サンテレサは異世界への入り口として『夢の街』と呼ばれた。そんな街で起こる事件の数々を追うケイ・マトバとティラナ・エクセティリカの二人によるポリスアクション。
異世界でも伝承として語り継がれる滅びたはずの吸血鬼がサンテレサにやって来て……
『忙しい夜』
エロ本を根こそぎ奪っていく強盗団を追うこととなったマトバ達。その間、どうにも二人の仲がよろしくないようで……
『10万ドルの恋人』
感想などなど
最初は互いに売り言葉に買い言葉、仲は決して良くなかった二人ですが、段々と距離は縮まり、最終的に同棲に発展。海近くの倉庫を改築したような家にて、猫一匹と刑事一人、異世界人一人による奇妙な共同生活の始まりです。
毎日のように起こるセマール人(異世界人)絡みの事件では、エクセティリカが大活躍……と思いきや、犯人の腕を切り落としたりとかなり波乱に満ちた刑事生活を送っているように思えます。そんな冒頭を経て、あらすじにて示した中編『忙しい夜』と『十万ドルの恋人』二編に関する感想を書き殴っていきましょう。
『忙しい夜』
事件の始まりは至って静かです。といっても重火器をセマール人に売りつける犯罪グループ摘発の際、銃撃戦が起きたり、手首から先を切り落としたりとありますが……うん、まぁ、静かです。だって、誰も死んでないですし。
そんな事件にて重火器を買う際にセマール人が用意したのはお金ではなく、棺桶だったことが多くの人の注目を集めます。棺桶と言えば死体を入れるものと相場が決まっていますが、大量の重火器を買えるような死体とは一体。セマール人であるエクセティリカに訊ねても、「よく分からない」との返答。
棺桶を試しに開けてみて鑑定に回そうなんて言い出したため、事件は危険な方向へと向かっていきます。
棺桶の中身は綺麗なミイラ。鑑識曰く目立った外傷はなく、いつ死んだかもよく分からないという代物。セマール人ですし、何かあるのではと思いますが、いじり回して訴えられても困る。
どうしようか?
と思っていたら、動き出してそこら辺にいる人の血を吸い出して、阿鼻叫喚の地獄絵図。眠ることのままならない夜が幕開けです。
吸血鬼は厄介なことに幻術を使い、銃弾を何十発と撃ち込もうが倒れることはなく、人の首を片手で捻りきる握力を持っているという規格外の化け物。しかも逃げた先の書店で初めて見るはずの英語を解読し、ここは自分たちがいた世界ではないことを理解しつつ、生きるための術を学ぼうとする……理解すればするほど化け物としか言えなくなってきました。
そんな化け物との戦いをすることとなるサンテレサの警察の方々。街の人々が安心して眠れる夜のために頑張って下さい。
『十万ドルの恋人』
今回追うこととなる事件はエロ本強奪事件となっています。
「エロ本を盗んでどうするんだ?」という疑問は最もです。しかし、考えてみましょう。これまで性欲を満たすものがイラストしかなかったような世界に、突如として色鮮やかなリアリティを追求した画像によるものが現れたとしたら……?
それはそれは、想像を絶するナニかがあるはずです。スマホで検索すれば出てくる現代には感謝しましょう。
ということでセマール人の中に破格の金を出してまでエロ本を手に入れようとする輩がいるようです。やはりエロは偉大ということでしょう。
そんなエロ本強奪を行ったトラックとのカーチェイスにて、ケイ・マトバの相棒とも言うべき車――ミニクーパーSという恋人――を失う冒頭部分。犯人を取り逃した責任を取ることも含めて、(本来はでなくても良い)捜査にかり出されることとなりました。
この事件自体も面白いのですが、物語として重きを置いているのは、ティラナ・エクセティリカの気持ちでしょう。未だケイ・マトバの家に住み、異世界には戻ろうとはしない彼女。その思いや「これからどうしたいか」などが語られていきます。
そんな彼女の取る行動が、事件にどう影響を及ぼすのか。その辺をどうかお楽しみに。