※ネタバレをしないように書いています。
プロやからな――
情報
作者:南勝久
試し読み:ザ・ファブル (5)
ざっくりあらすじ
ファブルにバイトを紹介してくれたミサキちゃんが、15年ぶりにシャバに出てきたヤクザ・小島に騙されて、風俗嬢として働かされそうになる。それを知ったファブルは、いよいよ行動を開始する――。
感想などなど
ミサキちゃんがいよいよ毒牙にかけられてしまった……。もうその予感はずっとあった。デリヘルを斡旋していたヤクザの男を小島が銃殺して、その後釜に勝手に座ろうとしているとしか思えない。兄貴分である若頭に「デリヘルはダメだ」と言われていたことは、メタ的なフラグが立ったと認識している。
そんなデリヘル経営において、最初に従業員として迎え入れられたのがミサキちゃんである。昔はグラビアをやっていたという過去、金に困っているという背景、人を見捨てられない優しさ。ヤクザに騙され、使い潰されて捨てられる特徴がそろい踏みの彼女が、ヤクザの誘いを断れるはずもない。
そんな彼女に対して、「力になるぞ」というファブル。読者としては彼が伝説の殺し屋であることを知っているが、ミサキちゃんから見た彼は、ヤンキーに蹴られて泣くことしかできない気弱な男だ。そんな彼をヤクザ絡みの案件で頼れるかといえば――とくにミサキちゃんのような女性には無理であろう。
ミサキちゃんは、デリヘルの誘いを受ける。
それはもう仕方がない。狭い自室で膝を抱き、一人泣く姿の哀愁はかなりのものだ。
さて、彼女は頼れる相手が一人もいなかった。だからこそ、ただ夜に泣くことしかできなかった。もう諦めていたのだろう。いっそ金を稼ぐことを許容し、それでも強くあろうとしているように感じた。
そんな彼女を影ながら救うために動き出したファブル。彼が彼女の危機に気付くことができたのは、かなりの幸運に恵まれていたと言って良いだろう。
まず若頭が知り合いにいて、小島が根城にしているマンションの一室を知ることができた。そこに潜入して捜し物をするように、若頭に依頼されたファブルが、「デリヘルの開店準備が着実に進んでいること」「ここら一帯のデリヘルを仕切っていた男は殺したこと」「ミサキちゃんを脅して雇おうとしていること」などなど、読者が知っている情報を一通り入手したのだ。
また、ミサキちゃん宅に盗聴器やカメラを仕掛けている男が、同じ職場にいたのだ。こんな偶然早々ない。できればそんな事態に遭遇したくないくらいに思っている。だがファブルにとっては僥倖で、ミサキちゃんがいつから職場で働き始めるのか? などのより細かな情報を入手することができた。
それら様々な情報を組み合わせ、彼女を助けるための最善策を考え出す。彼は殺し屋――きっと殺して良いなら救出は簡単だろう、だが殺しは禁じられている。そんな縛りプレイの中、プロの技を見せつけてくれた。
素人に憧れを抱かせ、プロを驚愕させる技の数々。おもちゃのような殺傷能力のない拳銃であろうとも、同業者を相手にしようとも、全くもって危なげのない救出劇の幕開けである。
これぞ伝説の殺し屋と、最高にスカッとする巻であった。