※ネタバレをしないように書いています。
鏡に答えはない
情報
作者:田中一行
試し読み:ジャンケットバンク 2
ざっくりあらすじ
「気分屋ルーシー」ゲームセット。これからも真経津の戦いを見守るために、特四 宇佐美班のメンバーとして生き残るべく、勤続年数を奪い合うことになる。そして次のゲーム「サウンド・オブ・サイレンス」がセッティングされ……。
感想などなど
獅子神 VS 真経津
ゲーム「気分屋ルーシー」の決着から第二巻は始まっていく。このブログでは「ネタバレをしない」ようにすることを掲げているのだが、正直めちゃくちゃ語りたい。第一巻で描かれた獅子神の行動や思考の全てが、真経津の掌の上で踊らされていたに過ぎないということが明かされていく流れが最高だった。
この勝負における肝は「真経津はどうして獅子神が選択した鍵穴の場所が分かったのか?」だろう。獅子神は最後の最後まで、その解に辿り着けなかった。
箱を入れ替えられた可能性に気付き、銀行員を利用してその道を潰した点など、獅子神はとても優秀だった。最後の一面において、自分の選択したものとは別の鍵穴を選択し、失敗した際のペナルティも必要経費だと割り切って受けるなど頑張りが見える。
だが結局の所、それらも全て真経津の計算通りだった。獅子神という男の性質を、その類まれなる観察眼で見抜き、決め台詞の「鏡の中に君を助ける答えはない」まできっちり決まった。彼の思考回路を利用した作戦であったとだけ言っておこう。
ゲームが一段落したらさっそく次のゲームを……といきたいところではあるが、視点は御手洗君に移り、彼が今後とも真経津のゲームを見続けるための戦いが始まっていく。これもまた面白いのだ。
御手洗は特別業務部審査課の宇佐美が率いる部に異動することとなった。そこでの主な仕事は地下で取り仕切られるギャンブルの監督や管理ではあるが、仕事を進めるに当たって特別なルールがあった。
それが『 ”勤続年数” が他人と奪い合える「通貨」になっている』というものである。この ”勤続年数” の多い者が特権と金を得るという仕組みになっているのだ。
例えば。
ある者は ”勤続年数” でエリア権なるものを購入し、自分の机の周囲を広くしている。また別の者は喫煙権を買い、仕事中にも葉巻を吸っている。仕事を退職する上でも三年分の ”勤続年数” が必要になるという徹底ぶりだ。
しかし、異動されてきたばかりの御手洗にはそれがない。そのため最初に一年分の ”勤続年数” の融資を受ける。もしも就業時間になって、自分が持っている ”勤続年数” がマイナスとなった場合、その分が差し押さえとなる。
つまり最悪の場合、命を落とすことだってあり得るのだ。
異動初日目から彼はピンチに陥る。彼のとっさの機転と、数字にめっぽう強いという能力がいかんなく発揮されていく。
何とかやっていけそう……と読者が安心するも、彼が常に危機的状況にいるということに変わりはない。彼が目的としている真経津の最期を見届けたいという願いのためには、もっともっと勤続年数を稼ぎ、ギャンブラーを選択し、専属の行員となる権利 ”ジャンケット権” を購入しなければいけない。
彼の戦いはまだまだ始まったばかりだ。
と慌ただしく過ぎ去っていく日常の中、真経津の次のゲームがセッティングされる。
ゲーム名は「サウンド・オブ・サイレンス」。
プレイヤーには3枚のレコードを並べる「セット」側と、その中から1枚を選択する「チョイス」側を交互に担当する。そして並べられる3枚のレコードには、それぞれ異なった演奏時間(0秒、2分、3分)が表記されており、「チョイス側」は選んだレコードに記載された時間だけ非常に有害な音楽――累計五分で鼓膜が破壊され、それ以降は三半規管や能に深刻なダメージを受ける――を鑑賞してもらうこととなる。
そしてゲーム中に再生されたレコードの合計再生時間が「10分1秒」を超えた瞬間から、人間には絶対耐えられない音を聞かされ続け、張力は一生戻らなくなる。
そんな危険なゲームで真経津の相手をする敵は村雨礼二。
一言で彼を表すならば人体を知り尽くした変態である。ギャンブルで得た金を使って、人を買い生きたまま解剖することを趣味としているのだ。それにより得た人外じみた洞察力と、身体の微かな機微すら読み取って思考を推測する力で、真経津の嘘を的確に見抜いていく。
それにより真経津は三分のレコードを何度も引かされ、一方村雨は全ての選択で0秒を引いていく。しかし、それなのに礼二が追い込まれているような嫌な予感が、徐々に肌を伝ってくる展開は、強者同士だからこそと言えるのかもしれない。
また最後の決着や種明かしは三巻に持ち越しだが、手に汗握るいいバトルである。