工大生のメモ帳

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ゼロから始める魔法の書Ⅴ 楽園の墓守 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】
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※ネタバレをしないように書いています。

『魔法』はまだない

情報

作者:虎走かける

イラスト:しずまよしのり

試し読み:ゼロから始める魔法の書V ―楽園の墓守―

ざっくりあらすじ

ゼロの書拡散を目論む〈不完全なる数字〉を調査するため、海運国家テルゼムを訪れた傭兵とゼロと盲目の神父。そこにある村では、ゼロを名乗る魔女が率いる集団が現れているというが――

感想などなど

黒竜島では魔法の力を駆使して竜を討伐、(こちらでも)全ての黒幕であったサナレが死霊術を使って死体に乗り移って操作することで干渉してきていることを知ったゼロ達。

彼女が所属する〈不完全なる数字〉の目論みであるゼロの書拡散を阻止するべく、調査を進めることになった。その第一段階として、海運国家テルゼムを訪れた傭兵とゼロと、盲目の神父。

盲目の神父は第二巻、第三巻の一件以来お世話になりっぱなしの強々裁定人である。裁定人というのは、対象が教会にとっての悪を見極め処理する存在であり、彼にとって獣堕ちと魔女は断罪対象である……ただし、ゼロと傭兵は「役立つ情報を引き出せるだけ引き出す」ために放置されている。ツンデレか?

ちなみに海連国家テルゼムを訪れたのは、ゼロが住んでいた森が近いから。また、盲目の神父にとっては、この国に教会の一大拠点である大聖堂があって、黒竜島での一件を報告しなければならないという理由がある。

彼がゼロのことを報告すれば、騎士団が派遣されて傭兵もゼロもお縄にかかることだろう。まぁ、傭兵は抵抗するだろうし、ゼロが本気を出せば国ごと滅びるが。

まだゼロからお役立ち情報は引き出せると判断している神父は、この国においてゼロ達の味方として動き回ってくれる。敵としての彼はあまりに厄介だが、味方となるととても心強い。

頭も切れるし、教会内部の情報に通じている。上からの信頼も厚い。光が強い昼などは戦えないという大きな弱点があるが、逆に暗闇であればあるほど有利ということでもある。

盲目の神父―― ”隠匿” という罪を背負った裁定人。そんな彼とは対照的な、女性の裁定人 ”背徳” がこの第五巻では登場する。

 

教会の掲げる正義が絶対で、その正義執行の任を任されているのが裁定人である。そんな裁定人に正体がバレていながら、生かされている獣落ちである傭兵と、魔法を開発した魔女・ゼロは例外である。

その例外的状況を生み出しているのが、ほかでもない ”隠匿” と呼ばれる盲目の神父だ。彼がそれこそゼロ達のことを教会に隠匿しているからこそ、この協力関係は築かれている。

では、どうして彼はそのようなことをしているのか。

きっかけとしては聖都アクディオスの聖女・リアを巡る一件であろう。ここで腐りきった聖都の実態を目の当たりにし、一時的とはいえ傭兵と協力関係を結んだ。教会にとっての悪を断罪するという命よりも、民を救うという教会の大義名分を選んだのだ。

彼はこの第五巻で「最近まで魔女を人間と知らなかった」と発言している。魔女は悪であるという教会が語った絶対が崩れ、彼なりに悪や正義を決めることができるようになっていた。そのような考え方を改めることになる一件として、この第五巻での事件が大きく関わってくる。

海運国家テルゼムを訪れて真っ先に、この国では魔女狩りが行われているという情報が耳に入って来た。魔女を狩るという目的のためならば、村人を皆殺しにするという教会の姿勢に対し、人々はなすすべがない。

魔女と思われる、似ている人がいるとなれば、それ以上の理由など考えずに密告して殺してもらう。それで魔女狩りが終わってくれることを願って、皆殺しにされる前に何とかしようと躍起になっている。彼らにとって魔女から守って欲しいとか、魔女が悪だということはなく、ただ教会から殺されたくないというだけの話だ。

よくよく話を聞いていけば、魔女がしていたことといえば、村を訪れて作物の収穫を魔法で手伝ってくれただけというではないか。この行為を、教会は悪と断罪し魔女狩りを始めた。

さらに教会の断罪は続く。魔女を見つけ出すために派遣された裁定人 ”背徳” は、村人の半分を生き埋めにして殺した。地面から首だけ出して列をなし、まるで畑のようになっている地獄絵図は、民にとっての希望になりうるのか。

盲目の神父はここに何を見出したのか。手に汗握る戦いと展開が続く第五巻であった。

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