工大生のメモ帳

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ダブルブリッドⅧ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

死の恐怖を忘れるなかれ

情報

作者:中村恵里加

イラスト:藤倉和音

ざっくりあらすじ

”怪” と人、二つの血を持つダブルブリッドである片倉優樹の率いる第六課の面々は、八牧の死亡以後、少しずつ狂い始める。

感想などなど

第八巻、はっきり言って何かが始まっているようで何も始まっていない。何というか、ずっと途切れなくシリアスな会話や思考が展開されていくだけの物語となっていく。

なにせ第七巻の状況から何も進んでいない。起承転結の起、序破急の序とった所だ。

八牧が死んだ、その死体を優樹と夏純が確認、そしてダラダラと日常を過ごしてく。ただそれだけの話である。

 

第六巻にて、「シリーズを通して、登場人物達の心情や考え方の変化が恐ろしいほど希薄」という感想を書いた。しかし、この第八巻は唯一例外である。八牧の死を通して、怪達の心情や考え方というものが、かなり大きく変化していく。

例えば虎司は八牧の死を境にして、人を喰ってみたいと強く考えるようになる。安藤という虎司に対して恋心を抱くクラスメイトを見る度に、「美味しいのだろうか」と胸や首筋や太ももを舐めるように見つめる様はかなり猟奇的だ。

そして、喰ったら死んでしまうという当たり前すぎる事実に頭を悩ませる。どう足掻いたところで、結局のところ彼は人に紛れて生きていくことは無理なのだと認識させられる。

夏純も例外ではない。タバコを嗜みつつ、これまでやることのなかったパチンコに手を出した。その理由は、今後やる機会がないかもしれないから。今まで住んでいた家も出て行って、優樹の家へと転がりこんだ。理由は覚悟を決めたから。

何かの覚悟を決めたような意味深な台詞が何度も何度も何度も……繰り返されていく。もう読んでいて辛い。

大田は傍観者としての立場を変えないようにしているものの、どこか優樹に対して干渉が強くなりすぎているように思う。八牧が死ぬ様をただ傍観していた彼に対して、怒りを露わにした優樹。そんな彼女に殴って欲しいと語り出すのは、傍観者として正しい姿勢なのだろうか。

優樹は特に奇妙と言える。心情や考え方に変化はないが、どうにも操作されているような違和感がある。彼女の前に現れる浦木の意味深な発言。ちぎれた左腕から生えてきた右腕、そして一番は太一朗との想い出の全てを覚えていないという状況……どこからどこまでが主の策略なのだろうか。

皆に共通しているのは復讐だった。その過程が少しばかり特殊だったりするが、それは大した問題ではない。

 

上記の文章には本作における全てを記載してしまった。

これまでのような血の匂いの強い戦闘シーンはない。ただひたすらに怪にとっての日常が描かれている。おそらくだが、今回描かれている怪の心情こそが本来正しく、これまで描かれていた心情は怪としての異端なのだろう。

彼、彼女らは人ではない。人のように見えても、心に抱いている核の部分でどうしても全く違うということを痛感させられる。第八巻はそういう内容だ。

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