※ネタバレをしないように書いています。
男(モブ)に厳しい世の中です。
情報
作者:三嶋与夢
イラスト:孟達
試し読み:乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 3
ざっくりあらすじ
修学旅行中にファンオース公国の襲撃に巻き込まれたリオンは、軍隊を撃退し出世してしまう。そのことに危機感を覚えた一部の貴族は、公国と組んで罪をでっち上げ、彼を幽閉させてしまう。それが公国の狙いだとは知らずに――。
感想などなど
戦争は準備段階で始まっている。戦場で魔法を放っているだけが戦争ではないのだ。
情報戦による騙し合いに、相手を内部から腐らせる作戦まで、多くの策略が歴史上で使われている。情報を得られるということは、それだけ戦場では有利に事を進めるに役立ち、相手の上層部にモグラを仕込ませていることは、戦場をコントロールすることに繋がる。
そういった意味で、リオンのいる国は終わっていた。
上層部を見て欲しい。彼らは自分の利益しか考えていない。リオンがダンジョンで奪取した飛空艇やロストアイテムを取り上げようとしたのは、彼が国に反旗を翻すことを恐れてのこと以上に、彼のアイテムが欲しいという欲求の現れだろう。
そして彼が爵位を上げていくことも、自らの席を脅かされるかもしれないという危機感に繋がった。嫉妬心、猜疑心、恐怖心……とにかくリオンに向けられる負の感情が高まり、それを公国には利用されたのだろう。
まず間違いなくリオンは国の最高戦力である。それを封じることができれば、戦争を優位に進めることは容易い。それが公国の考えであり、そのために胸糞の悪い展開が繰り広げられていく。
そんな裏取引が行われている中、第三巻の前半部は聖女となったマリエの護衛として聖女親衛隊に加わることになり、その活動の一環として、エルフたちが住む島のダンジョンに潜ることになる話から描かれていく。
はっきり言って戦闘においてリオンが苦戦することは(現時点では)ない。強いて言うならば公国の最強騎士がライバルと呼べるかもしれないが。そんなリオンにとって、エルフの島にあるダンジョンを攻略することなど容易い。
しかし懸念点はたくさんある。
まずエルフという種族は、ルクシオンのデータには存在しなかった。つまり旧人類と新人類が戦争している頃には少なくとも、エルフはいなかったということである。となるとルクシオンが眠っている間に、エルフという種族が誕生したということになる。
そんなエルフの島にあるダンジョンは、旧人類の作った機械が置かれていた。カードキーを読み取る機械や、奥に進めばさらに何をするか分からない機械が並んでいた。これらが意味するところとは一体――。
さらにダンジョン攻略には、公国のヘルトルーデ御令嬢も同行している。いっぱしに王国を責めてきた危険人物ではあるのだが、彼女を傷つけたら戦争が勃発することは必至である。一応、人質のような立ち位置ではあるのに、彼女はなかなかに傲慢な態度を取ってくる。
まぁ、いい。戦争はリオンがいる限り起きないだろうし、人質だってこちらにいるのだから。
そんなアドバンテージをドブに捨てる馬鹿な味方がいる。無能な味方がなによりも厄介というのは、歴史と本作が証明している。ちなみにリオンを罠にかけたのは、リオンの姉ジュナである。自身の使用人に命じ、リオンと公国が繋がっているような証拠を彼の部屋に置いたのだ。それを命じたのは上ということは自明の理だが。
そうしてリオンは刑罰に処され、飛空艇もルクシオンも奪われるに至った。これでリオンは戦えなくなった。彼の味方はいない。誰もが彼に石を投げ、彼の処刑を心待ちにして、彼から奪った飛空艇やルクシオンを自分の物にできることにほくそ笑んだ。
酷い世界だ。救いはないのだろうか?
そんなリオンの数少ない味方として、オリビアとアンジェが立ち上がった。ゲームでの悪役令嬢と主人公の二人が、モブのために戦う決意を固めたのだ。これまでリオンに守られてきたオリビアが、すっかり戦う聖女の顔となっている。アンジェは自身のプライドも何もかもを捨て、愛する男のために覚悟を決めた。
いよいよ戦争が始まる。聖女に偽物がなり変わり、王子達は偽聖女に惚れている状況で、ゲームとは全く違うルートを取っている中、ハッピーエンドには迎えるのだろうか。その全ての鍵を握っているのはモブである。
良いクライマックスの演出であった。