※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
終末世界の歩き方
情報
作者:夏海公司
イラスト:ぼや野
ざっくりあらすじ
タイキとヤヒロは、無数の落書きが描かれ不穏な空気が漂う高層ビルの建ち並ぶ繁華街へとたどり着く。どうやらここは二つの勢力が縄張り争いをする戦場の真っ只中であったらしい。
感想などなど
〈工場〉にて、〈学園〉での幹部達が残した負の遺産を目撃した第二巻。人権を度外視した実験の数々に、結局多くの犠牲を出して失敗したという過去。ツクシの正体と、辿った末路には驚かされた人が多いのではないでしょうか。徹底して読者の予想を裏切ってくる展開と構想は、読んでいて楽しいものです。
そんな〈工場〉で物資やら武器やらの補充を行い、旅を続ける二人。次の舞台は高層ビルの建ち並ぶ繁華街である。崩壊しかけの終末世界らしく、崩れかけの建物に、奇怪な落書きがそこら中に描かれている。
この舞台における問題はそんな風景ではなく、そこを縄張りにしようとしている対立構造でしょう。落書きは、それぞれのグループ――〈果樹園〉と〈天文館〉が自身の縄張りを主張するためのもののようです。そして、年がら年中どこかしらで巻き起こる戦闘。爆発。まさしく危険地帯という言葉がふさわしい。さっさと通り抜けてミシハラへと向かいたいのだが、相手がなりふり構わず攻撃してくるものだからできないという最悪な状況。
そんな戦場の中でクイナという〈灯台〉に所属するメッセンジャー……つまりは交渉人のような女性に出会う。彼女は『繁華街における戦闘を辞めさせる』ために、二つのグループの間を取り持とうと奮闘しているらしかった。
まぁ、やり方が泥棒じみていたり、スパイじみていたり、勝手に色々好き勝手にやるものだから、双方のグループからいい目で見られていないというのは悪しからず。険悪になった二つのグループの仲を取り持つためには、手段など選んでいる余裕がないのかもしれない。
クナイは『戦闘を止めたい』、二人は繁華街を抜けるために『戦闘を止めたい』。ここでクナイと二人に共通した目的というものが誕生し、協力体制を敷くこととなる。
目的を達成するためには、現状を整理し、現状を生み出した原因というものを洗い出さなければならない。
現状は『〈果樹園〉と〈天文館〉の仲が悪く、抗争が起きている』となっている。互いにそれなりの死人が出るほどの抗争に発展しているということは、それなりの理由というものがあるはず。
ということで、双方のリーダーとコンタクトという名の侵入を行ったヤヒロ一行。すると互いに、「相手が最初に裏切ったんだ!」という交わることのない平行線をたどる主張を繰り返していた。
さらに共に〈秘宝〉というものを探し求めて繁華街にたどり着き、抗争によって探索することができていないという事実まで判明する。
互いの意見を聞けば聞くほど、考えれば考えるほどに、この抗争がいかに無意味で無駄な行為であるということが露わにされていく。なにせ「最初に裏切ったのはあっちだ」と言い合って責任を押しつけ合ったところで、それを判別するということは不可能(これは第三者視点だからこそ言える意見だろうが)。読んで貰うと分かるが、二つのグループはともにリーダーの意思を無視して(誇大解釈して)、勝手な行動を起こす部下が多く、完全に統率が取れていると言い難い。互いに部下が相手を勝手に殺したという可能性を否定できないのだ。
また、目的はともに〈秘宝〉というものを探しているのだから、妥協点を見つけるということも不可能ではないはずだ。現在すべきはつぶし合う抗争ではない、〈秘宝〉を見つけるべく手を取り合うべき……まぁ、こんな感じで詭弁を並べ立てて交渉するタイキ達。
しかし世の中そう上手くいかない。
本作はミステリ色が強い構成となっている。
これまで長々と書いた抗争の背景だが、どうにも色々な違和感というものに出くわす。例えば「まず〈秘宝〉って何やねん」という大前提の話。恐ろしい話ではあるが、双方のグループの話を聞いても〈秘宝〉が何であるかは分からない。良く分からないものを求めて殺し合うというのは、全くもって理解できない。
他にも、「そもそも意見が食い違う」というのにも限度がある。読み進めていくと、双方のグループが持っている情報が、あまりにも違い過ぎていることに気付かされる。互いに部下が無能だったと仮定しても、あまりに奇妙な状況と言わざるを得ない。
……最初は感じなかった違和感も、後半になるに連れて大きくなり、そしてピースがカッチリと嵌まる瞬間というものが訪れる。相変わらず、読者の予想を裏切る作品であってくれたことに感謝の言葉を贈りたい。