※ネタバレをしないように書いています。
魔に呑まれる
情報
作者:宇野朴人
イラスト:ミユキルリア
試し読み:七つの魔剣が支配する V
ざっくりあらすじ
ナナオ達は先輩として、キンバリーの学生として、それぞれの道を歩もうと勉学と鍛錬に打ち込んでいた。そんな中、オリバーと同士達は次のターゲットにエンリコに定め、計画を推し進めていく。
感想などなど
第一巻の最後にて『驕慢の錬金術師、ダリウス=グレンヴィル』を殺害したオリバー。そこで本シリーズにおける柱は、オリバーによる復讐だということが明かされている。しかしながら、第四巻に至るまで復讐の連鎖は続いていない。
母親の仇としてオリバーが殺さなければならない相手は以下の人物達だ。
『魔法生態系の君臨者、バネッサ=オールディス』
『千年を生きる至高の魔女、フランシス=ギルクリスト』
『魔道築学の断りに遊ぶ狂老、エンリコ=フォルギエーリ』
『知を越えた無知の哲人、デメトリオ=アリステイディス』
『あまねく生命を嗤う呪者、バルディア=ムウェジカミィリ』
『全てを見下ろす孤高の峰、エスメラルダ』
それぞれ一癖も二癖もある魔法使いであり、魔の深淵を覗かんとして人の道を外れし者達である。その壊れ具合を教えてくれるエピソードを一つ挙げるならば、オリバーが彼・彼女らに復讐する理由となっているクロエ=ハルフォード殺害の一件だろう。
これまでオリバー以外の口から度々名前が出てきている。それは彼女が後生に語り継がれるほどにキンバリー魔法学校における伝説的な天才魔法使いだったからだ。しかし、そんな彼女はキンバリーの教師陣にできる限りの苦痛を与えられ、最後の最後まで苦しんで死んだ。
その理由を知るために。
クロエに与えた苦痛を返すために。
オリバーは狂人達と戦わなくてはいけない。そんな二人目のターゲットに選ばれたのが、『魔道築学の断りに遊ぶ狂老、エンリコ=フォルギエーリ』であった。この第四巻を通して、このエンリコを殺すための対策と計画が描かれており、オリバーと同士達の執念の結晶が詰まっている。
この第五巻における戦いの魅力を知って貰うためには、エンリコ=フォルギエーリという人物について知って貰わなくてはいけない。この男は魔道築学と呼ばれる学問の権威である。
魔道築学は簡単に言うならば、ゴーレムを代表とするような魔力で動くギミック兵器を作る学問だ(こういうチンケな言い方をすると、おそらくエンリコに殺されるが)。
彼の授業では、とある一定の規則性で動くギミックが仕込まれたゴーレムやスライムと戦闘しながら、解体する。単純にゴーレムは強いため押さえ込むための単純な戦闘力が必要となり、解体する上ではギミックを理解する洞察力といった力が求められる。読んでいる側としては面白い戦闘なのだが、授業を受けているオリバー達にとってみれば、懸命に考えながら戦うという体力と精神が削られる辛い時間なのだろう。
そのエンリコの武器は、言わずもがな魔導築学で作り出したゴーレム達だ。彼が出せるゴーレムの数は、実質無限と言って良い。ダリウス=グレンヴィルの時のように、一人で挑んで殺せるような相手ではない。
となると戦う場所は熟慮しなければいけない。
キンバリー魔法学校の校内のどこか……この学校の構造を彼は知り尽くしている。いたる所に仕込まれたゴーレムを初めとするトラップの数々。彼しか知らない通り道。奇襲を仕掛けたとはいえ――そもそも奇襲は上手くいくはずがないのだが――逃げられた挙げ句に他の先生達に総出で襲われれば、これこそ本当に勝ち目はない。
となると迷宮のどこか……迷宮も彼の庭のようなものだ。学校内と同じく、各地にゴーレムが仕込まれており、こちらが多勢で攻めていたはずが、逆にゴーレムに囲まれているという最悪な未来が見える。
……もうどこもないじゃないか……という絶望に差し込む光明が、あらゆる死のギミックが張り巡らされた迷宮の中にあった。なんとゴーレムといった魔導を仕込むことが絶対にできない場所があったのだ。
さて、舞台は整った。無限のゴーレムを封じたことで、オリバー達には勝ちの目はあるのだろうか?
この第五巻は、エンリコという敵役としての魅力が最高だった。オリバー達の策を全て看過していく様は強者であり、高らかに笑いながら復讐の刃を迎え撃つ様は狂人であった。そんな一人の男の迎える最期は、是非とも見届けて欲しい。
こんな戦いがまだまだ続くのかと思うと、絶望と同じくして喜びも浮かんでくる。一読者として、この作品の魅力に呑まれてしまったかもしれない。