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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です6 感想

【前:第五巻】【第一巻】【次:第七巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

男(モブ)に厳しい世の中です。

情報

作者:三嶋与夢

イラスト:孟達

試し読み:乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6

ざっくりあらすじ

死に別れた弟の面影をリオンに感じているルイーゼが、聖樹の生け贄に選ばれてしまう。しかも弟に呼ばれていると言って、自ら率先して死にに行こうとしていた。その裏に何かがあると確信したリオンは、調査を開始するが――。

感想などなど

もうゲームとは全く違う様相となってしまった。そもそもノエルの妹・レリアが、転生者として紛れ込んでいるところからストーリーは大幅に狂い始め、リオンが来たことでさらなる混沌へと向かっている。

執着心・独占欲・権力が強すぎて、拉致監禁から婚約発表というコンボを決めかけていたロイク。一度はノエルを救おうとして、ノエル本人に断られたことで意気消沈していたリオンも、結婚式をぶっ壊すことで彼女を救出した。

結婚式という幸せな舞台に、単身乗り込んでで新郎をボコボコにしたリオンは、端から見れば一方的な悪役にしかみえない。ただ裏の事情を知っている読者からしてみれば、ノエルを救うためにはこういう強引な手段しか残されていなかったということも納得できてしまう。

ノエルに対してロイクがしたことは許されることではない……結果よければ全て良しということにしておこう。

ただ、こうして結婚式をぶっ壊したからにはリオンにも、それ相応の責任というものが発生する。本人から直接聞いたという訳ではないにしても、ノエルの想いを聞いてしまい、その上で自らが救出に赴くという選択をとったリオンが、ノエルと関係を結ぶという流れは自然に思える。

しかし、すでにリオンと結婚しているオリビアとアンジェがいる。ノエルとの関係性は二人には内緒にしていたため、第六巻は二人とノエルとリオンによる修羅場シーンからスタートする。浮気は絶対に許さないと豪語していた二人に、このまま殺されても仕方ないような気さえしてくる。

こんな美人なお嫁さんが二人もいながら、新たな女性に手を出しちゃって。

その辺りの問題も解決しなければいけない……が、もっと別の問題が浮上する。

 

リオンとマリエの他に、この世界に転生してきた者がいる。これまで大きくストーリーに関わってきていないので、これまでの記事では名前しか書いていないレリアというノエルの妹である。

彼女はノエルとロイクが付き合えるように動き(結果としてロイクの独占欲を煽ってしまったが)、自分は無難なエミールと婚約を結び、一見すると幸せな生活を掴んだかに見えた。

しかし、実際の彼女の胸中は全く幸せとはかけ離れ、焦り・恐れ・不安・嫉妬といった感情が渦巻いていた。その理由はたくさんあるが、一つにエミールのことが大して好きではないということが挙げられる。

すっかり冷め切ったエミールに対する愛。そもそも妥協で彼を選んだかのような描写には、エミールに対する同情すら浮かんでくる。そんな彼女が実際に心惹かれていたのは、優男風なエミールとは対極にいる、強引で男らしさと腕っ節にあふれた男・セルジュだった。

しかし、このセルジュという男はラウルト家の嫡子(セルジュの場合、家督を継ぐために引き取られた養子)でレリアとは身分の差が大きい。またラウルト家との関係が上手くいかなかったために、冒険者となるために家を飛び出し、生死も定かではないという状態だった。それなのに第五巻になって戻ってきたものだから、レリアの心は彼に揺れ動いていく。

リオンという男もレリアにとっては驚異だった。彼が持っているチートアイテムは、一国を滅ぼしかねない危険を秘めているということを、ゲームをプレイしていた彼女は知っていた。もしも彼と争うことになったら、私には勝ち目がない……何とかして自分も同等の力を手に入れなければいけないと考えるようになる。

レリアのエミールからセリジュへの心変わり……リオンに対する危機感……それらがレリアを凶行へと誘っていく。そこに歯車がかみ合うように、セリジュがラウルト家への恨みが大きな事件へと発展していくことになる。

 

ここでラウルト家について説明しておきたい。何を隠そう、ゲームでのラスボスがラウルト家の家督であるアルベルクだ。

彼は実子である【リオン・サラ・ラウルト】がなくなった際、彼の代わりに家督を継いでくれる者として、セルジュを養子として迎え入れた。

要はセルジュ=リオンの代わりという風に扱い、次期家督となるように教育・指導を行おうとしたのだ。それが彼のラウルト家に対する憎しみを増長させ、結果として冒険者になるために家を飛び出すという結果を生んだ。

そんな彼の姉であるルイーゼは、そんな弟・セルジュに対して、どちらかといえば同情していた。こんな家に来たくはなかったのだろう、せめて優しく接してあげようとするのだが、そんな姉にセルジュは反抗した。

姉と死んだ弟・リオンとの思い出の品を燃やしたのだ。

そこからルイーゼとセルジュの関係性は冷え切ったものとなる。そして、これが起因したという訳ではないのだろうが、ルイーゼが死んだ弟・リオンに対する想い出が美化され続け、リオンの面影に固執するようになってしまう。

そんな彼女の前に現れたのが、同じリオンという名前を持ち、しかも容姿すらも似通っている我らが主人公にして屑・リオンであった。

 

こうしてラスボスであるラウルト家と親密な関係を持つようになったリオンは、弟の死から未だに立ち直れないルイーゼに協力してあげることになる。具体的には死んだ弟にしてあげられなくて後悔していることを、屑のリオンにしてあげるというもの。

これがまぁ、キツい。これによって死から立ち直ることができれば良いのだが、一向に死から立ち直れるような兆しが見えない。どんどんとリオンに依存していくルイーゼと、ラウルト家をぶち壊したいセルジュと、リオンを敵視しセルジュと良い感じになりたいというレリアの思惑が重なり、大事件に発展していく。

徐々に事態が大きくなっていき、収拾つかない段階まで行ってしまうまでの流れが面白い。事件が発生して「面白い」と思い始めている時点で、読者も屑化しているかもしれないとふと思った。

ただ面白いから仕方がない。そんな第六巻であった。

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