※ネタバレをしないように書いています。
男(モブ)に厳しい世の中です。
情報
作者:三嶋与夢
イラスト:孟達
試し読み:乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5
ざっくりあらすじ
密かにリオンを思っていたノエルだったが、彼が婚約者と仲睦まじくしている光景を見てその恋を諦める。そんなことつゆ知らず、リオンは一時的に国に戻ることに。そんな時を狙い、彼女のストーカーをしていたロイクが動き始めた。
感想などなど
第四巻のあらすじ、ピエールをボコボコにした。完。
この巻を通して描かれていたのは、『六大貴族の屑さ』『ゲームの主人公はノエル』『ノエルの妹レリアはリオンらと同じ転生者』ということだ。この第五巻を読み進めるに当たっては、最低限この三つを押さえておけば問題はないだろう。
とりあえず第五巻でも六大貴族は屑だし、ノエルはヒロインだし、レリアは転生者として立ち回っている。「乙女ゲームをプレイする女性は、頭のネジが外れているのか?」(そう判断するサンプルはレリアとマリエしかいないのだが)という偏見を抱いてしまいそうなくらい、マリエと同じくらいレリアの発想も緩い。
……いや、マジで酷い。なにこの作品……屑しかいないのか……?
そんな中、数少ない癒やしがノエルなのだ。ノエルとリオンのラブコメだけをずっと書いてくれても良いのよ? という読者の願いが届くことがない。
ラブコメ作品の感想を書くに当たり、常々ブログ主は鈍感な主人公の罪深さは力説してきた。本作はラブコメではないのだが、彼らはまだ学生という立場であり、かつ男女の恋愛が世界の滅亡に直結する辺り、ただのラブコメよりも高度な恋愛偏差値が求められるとさえ思っているのだが、リオンの鈍感さは病的である。
彼の妹の性格がかなーりアレだったことや、この世界に来てからのいざこざを加味するに、彼の女性を観る目は歪んでいると言わざるを得ない。それに加え、自己評価の低さが問題を大きくしていく。
これまではリオンを落とすために積極的にならざるを得なかったアンジェとリビアの二人のおかげで、彼の関係性は上手く回っていた。重婚も進んでしてくれたというのも、結果としてすべてが丸く収まることに繋がった。
それと同じようなことがノエルにできるだろうか。
いや、できない。だからこそ拗れる。そこを上手く立ち回るべきだったのがリオンな訳だが、彼にその器用さを求めるのは酷だろう。
……ここまで読んで分からない方はいないと思うが、ノエルはリオンに淡い恋心を抱いている。思い返してみると、彼女の周囲も癖の強い変人・狂人・変態しかいなかったことを考えると、リオンはかなーーーりマシだった。
普通に会話できる人間の存在の貴重さを噛みしめることになるほどに、この第五巻においてリオンが戦うことになる相手ロイクはやばい奴だ。
そのやばさの片鱗は第四巻ですでに花開いている。自分とノエルが付き合っているという噂を流し、自分との関係を公然の事実としようとしたムーブは、普通の人間ならば気持ち悪すぎて社会的に抹消されている可能性すらある。
ただロイクには権力があった。それに対してノエルは一般人……抗うすべはない。ロイクはどこにでもいる一般人と結婚するような立場ではないことが、これまでノエルが無事でいられた理由だったのだろう。
しかしその均衡が崩れてしまう。
なんとノエルの手の甲に巫女の証が現れてしまったのだ。
ここで少し状況を簡単に整理しておきたい。ゲームのストーリーでは巫女の証が現れた主人公・ノエルと、守護者の紋章を持っている攻略対象(=守護者としてふさわしい力を持っている者)が愛を育むことで世界を救う。つまりノエルに巫女の証が現れたということは、逆説的にゲームのストーリー的には終盤ということが分かるのだ。
となると気になるのは、守護者の紋章が現れているのは誰か。お察しの方は多いかもしれない……リオンである。彼とノエルが愛を育めばエンディングへと突入、ハッピーエンド。ゲームはクリア。世界は平和になり、ノエルも幸せ。
もう勝ち確定ではないか。ちょうどノエルと誰をくっつけるか悩んでいたところだし、もうリオンと付き合えばいいじゃん。
だがノエルはリオンと彼の婚約者が仲良くしている光景を目撃し、枕を濡らすこととなる。あぁぁぁ、とマリエと同じ反応をしてしまった読者もいると思われる。かくいうブログ主もその一人だ。
ただまだやり直せる。アンジェとリビアは重婚を許してくれると思う。たぶん。おそらく。リオンの一言があれば、状況はいくらでも好転していた。
しかし、そこに追い打ちをかけるようにリオンは一時帰国。その時を狙っていたかのように、彼女のストーカーが行動を開始し、ノエルを拉致監禁してしまう。行き過ぎた恋が犯罪を生む現場を目の当たりにしつつ、リオンのもどかしさに歯がみしつつ、みーんなの屑さに逆に笑ってしまいそうになりつつ、物語は急展開していく。
屑には屑をぶつけるのが手っ取り早い。正義とは思えないようなムーブで、いつも通りに彼女を救ってあげてくれ。ある意味、このシリーズでは王道の展開という安心感がある第五巻であった。