※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
夢を見よう
情報
作者:田中ロミオ
イラスト:山崎透
ざっくりあらすじ
壊滅状態となったクスノキの里では人口流出が問題となっていました。それを解決すべく動くわたしですが、ただでさえ忙しいというのに祖父は、好事家の貴族に誘われて月旅行へと赴き、Yは復興のためにとアニメーション制作に精を出すのでした。
感想などなど
モニュメント騒動により壊滅状態となってしまったクスノキの里。詳しくは第七巻を参照下さい。壊滅したからには復興しなければならないのですが、残念なことにそのためのやる気というものが失われているようです。その理由が、支援団体から毎日のように送られてくる大量の物資のせいだというので救いがありません。
復興のためには少なからず労働に勤しまなければいけません。しかし、現状クスノキの里の人達は働かずとも衣と食には困らないため、働く理由がないとでもいいましょうか……とにかく働かずとも特に困っていなかったのです。
人類は必要に迫られなければ動かないということなのでしょうか。後手後手の対応は身を滅ぼすということは長い歴史が教えてくれる訳ですが、もう衰退しっぱなしの人類にとって歴史はもうないも同然なのでした。教育の重要性を教えてくれます。
さらにクスノキの里の住民達は徐々に徐々に、ゆっくりと引っ越ししていくことで人口が流出していきます。毎日のように「引っ越します」と挨拶に来る住民が多いことこの上なし。悲しきかな、人類が衰退しきるより前にクスノキの里が消失してしまうのも時間の問題なのかもしれません。
そんな問題を解決すべく頭を悩ませていたのですが、そこに降りかかる問題の数々。不幸な時には、さらに不幸が降りかかってくるものなのです。
一つ目は――いや、問題に数えて良いかは疑問ですが『伯父さん、月面旅行へ』行ってしまいました。過去の超技術を発掘し、宇宙に行けるようになってしまったようで、それに誘われてしまったようです。
二つ目は『逆子を妊娠したヤンママ』の存在です。人口流出のついでに医者までも流出してしまったクスノキの里で、帝王切開なんて出来るはずもありません。調停員にこれから生まれようとしている命が託されてしまいました。
さらに三つ目……まぁ、これはしなくてもいい苦労なのですが、『アニメーション制作をする』ことになってしまいました。どうやらアニメで町興し、ならぬ里興しをしようという訳です。
観光名所は物語が生み出します。「あの大名がアレコレして建てた城」をありがたがって見に行く観光客、「あのヒロインがアレコレして涙を流した場所」に行き共に涙を流すファンの方々……このクスノキの里にも、そのような物語を生み出そうとした訳ですが、そう簡単にいくはずもありません。
何とかして作り上げた三分のアニメーションを三十分に水増しした……この一行だけで作品の惨状は理解いただけるのではないでしょうか。
さらに四つ目は『睡眠不足』です。これまで紹介した問題が寝る時間というものを徹底して奪っていき、やっとこさ作り上げた睡眠時間も心労により結局眠れず、寝たいのに眠れないというストレスがさらに心を蝕んでいくのです。忙しければ心を失う、漢字が良く出来ているということを実感させられるのでした。
とりあえず問題を解決するためには、人間らしい心というものを取り戻さなければいけません。ということで短い時間だけでもゆっくり眠ることができるように、妖精さん達に睡眠薬をお願いすることにしました。
さて、妖精さんが作り上げたものが普通なはずありません。
小さじ一杯で睡眠導入剤、小さじ二杯で熟睡、小さじ三杯で永眠できるという画期的なその薬……何の因果か町中の人が一斉に摂取することになる訳ですが、まぁ、その過程の話は置いておきましょう。重要なのは結果なのです、この世には結果だけが残るのです。
どうやら住民達の夢が一緒くたになってしまうことで、同時に同じ夢を見てしまうという状況になってしまったのです。これだけならば、まぁ、問題ないかもしれませんが、どっかの誰かさんが夢の中で自由に色々できるアプリケーションを作成してしまった模様。
「もう夢からでなくていいや!」
そんな馬鹿な! と思われるかもしれません。しかし、これは現実です。住民の八割が夢の世界へと引きこもり、あれやこれやの楽しいドリームライフを過ごしていました。
夢の中は凄いのです、何を食べても太らない。現実を忘れて、これまでできなかったことをしっちゃかめっちゃか楽しむ住民の皆様方。
夢の外には壊滅したクスノキの里があるのですが、そんなことはもうようでもよくなったようです。発達しすぎた現実逃避は恐ろしい。
そんな住民達を守るべく立ち上がる調停員。彼らは英雄か、はたまた悪魔か。
月に行った祖父はどうしたのだろう? という疑問はさておいて、クスノキの里に突如として訪れたピンチのために、頑張れ調停員。
これまでとは違い、がっつり三百ページの長編をお楽しみあれ。