※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
隣の芝生は青く見える
情報
作者:駱駝
イラスト:ブリキ
ざっくりあらすじ
突然にやって来た転校生・洋木茅春は、ジョーロの手の甲にキスをする。えっ、もしかして待ち望んだラブコメですか?
感想などなど
ハーレムというものを御存知だろうか。一人の男性が多くの女性に愛されている状況のことだ。これまで散々な目にあってきた逆張りラブコメが、今回になって比較的……まぁ、比較的にラブコメをしていた。
第二巻時点でハーレムのフラグはビンビンに立っている。いや、ハーレムらしいイベントが不足していると言えど、相関図だけ見ればもはやハーレムだろう。誰もが羨む美少女達の視線がジョーロに向いている。第一巻の毒舌合戦が嘘の様だ。
さて、ハーレム作品にはお約束というものが存在する。
まず一つ目は『難聴』である。『鈍感』とも言い換えられる。ヒロイン達を振り回すそれはもはや病気。精神病棟にぶち込むか、補聴器の購入をお勧めしたくなるような主人公を多数見てきたことだろう。
しかし、本作においては適用されない。顔を赤らめるヒロインに対し、「あぁ、こういうことなんだな」と冷静に考える様は女の扱いに手慣れたナイスガイを想像させる。馴れ馴れしくて距離感が近すぎる幼馴染みや、母親とは思えないようなコミュニケーションを取ってくる母親だったりの影響で、女性の扱いに手慣れている感がある。
二つ目は『特殊性』である。ラブコメのプロローグにて主人公が「俺は平凡な高校生」と言ったりするが、大抵平凡ではない。女性にしか動かせない新兵器を動かせたり、ヤクザの家系の息子だったり、殺し屋だったり、スナイパーだったり、某大泥棒のご子息で色々仕込まれていたりする。どう考えても平凡ではない。
そこまでの特殊性はなかったとしても母子家庭だったり、両親がカルト宗教の上役だったりと何かしらで特徴を出そうと作者は苦心することとなる。
では本作の主人公ジョーロはどうか。
家庭は普通である。本人も普通である……うん、特徴がないことが特徴? 「涼宮ハ〇ヒ」のキョンや、「やはり〇の青春ラブコメは間違っている」の八幡に代表されるような無気力や捻くれを連想させるようなキャラクターの作りとなっている。
……いや、正確に言うなれば全く無気力ではないし、捻くれ……うん、まぁ、捻くれてはいるのか。その辺りは読んでから判断して貰いたい。
多くのラブコメでは『難聴』や『鈍感』によってストーリーを展開させ、『特殊性』によりギャグを生み出している。
本作では代わりに『ヒロイン達の思いを知った上での主人公の行動や心理』によってストーリーを展開させ、『ヒロイン達の特殊性』によってギャグを生み出している。
第一巻が分かりやすい。まず、ひまわりとコスモスがサンのことを好きになったと知った上で協力するという主人公の行動によりストーリーが展開し、そのヒロイン達がポンコツであることで面白さを生んでいた。後半のドンデン返しはとりあえず置いておこう。
では第三巻ではどうか。
新キャラとして登場した洋木茅春は転校して早々、ジョーロへの好意を隠そうともせずに近づいてきた。それを受け、ジョーロは何を思うか?
「あ。これはまただな」
彼も学習する。明らかなラブコメ展開は罠であると。その前提の元、彼は思考を進め行動していく。
さて、いきなり手の甲にキスをする女性がいるとして、それは平凡な女性と言えるだろうか? 否、言えない。
彼女の言動は常識からは少しばかり逸脱している。しかし、一人の乙女としては正しい(?)のだろう。
「君達(ひまわり、コスモス、パンジー)に、ジョーロを賭けた勝負を挑ませてもらうかな!」
そんな洋木茅春の一言により、四人の美少女によるジョーロ争奪戦が幕を開けた。
上記だけ見るとラブコメしているという印象を受けるだろう。しかし、第三巻はハーレム作品の主人公全員が抱くべき悩みに焦点を当てていた。それは、
何故、彼女達は自分を好きになったのか。
贅沢な悩みだと自分は思う。真っ向から愛情をぶつけられなければ、そんな疑問は浮かばないのだから。
ジョーロよ、貴様は既に立派なラブコメ主人公だ。異論は認めない。