※ネタバレをしないように書いています。
隠居したい
情報
作者:鳥羽徹
イラスト:ファルまろ
試し読み:天才王子の赤字国家再生術 4 〜そうだ、売国しよう〜
ざっくりあらすじ
アースワルド帝国の新たな皇帝を決める会談が執り行われるという大事な時期に、帝国に招待されたウェイン王子。そんな面倒なこと断るつもりだったウェインだったが、何故か妹のフラーニャ王女が出席することに。
感想などなど
王国のトップである王は、血統で決める。
これはどの国でも、どの時代でも共通だ。それが能力で抜擢されるようになった(ということになっている)のが民主主義だ。国民が投票で「誰に国を率いて欲しいか」を決めることで、国の政治に参加することができるようになったのは、歴史において大きな転換だったと思う。
その転換が起きるきっかけとなるのは、大抵の場合は政治の酷さに国民の不満が爆発したことによるものだと相場が決まっている。もしくは王の力が弱まり、転覆させるべく動いた者達の策略か。
アースワルド帝国は、皇帝が国のトップとして君臨し政治を動かしてきた。その政治はかなり上手く動いていたのだろう。山脈を隔てて分割されている大陸の半分を支配するに至ったのは、有能だったからの一言に尽きる。
そんな帝国のトップが不在の今、早急に次期皇帝を決める必要がある。
そのための会談が執り行われることとなった。ロウェルミナ皇女が皇帝の座を狙っていることは第二巻で嫌という程に味わった。しかし女性がその席に座ることは、帝国の風習や常識が敵となっている。ある意味、誰よりも帝国の席から遠い。
それでも国のためを想い、戦うことを誓った彼女の覚悟は、ウェインを巻き込んでいく。その渦中にウェインの妹・フラーニャ王女も入ってくることになるのが、この第四巻である。
次期皇帝を決める会談の重要性は分かって貰えただろう。その席に呼ばれるということもまた、ウェインにとっては面倒なことこの上ないということも、遠回しで理解していただけたら幸いだ。
しかもその招待してきた人物が、ロウェルミナ皇女というのが憎い。おそらく会談において ”男であるがゆえに” 優位に進められるのは、兄達三人だと想像できる。皇女はは ”女性である” という理由で、直接的な言葉はなくとも、皇帝にはなれないという形で話が進んでいくことも分かる。
しかもロウェルミナ皇女には、面倒な事件にウェインを巻き込んだという前科がある。この上ないくらい行きたくないウェインは、大陸の左側の国とのゴタゴタを片付けるため(事実、滅茶苦茶に忙しい)、今回の招待は断ろうとした。
しかし、そんな状況で「自分が行きます」と名乗り出た人物がいた。
フラーニャ王女である。
どうやら彼女は彼女なりに兄を助けたかったようだ。とても忙しくしている兄、最近なかなか構ってくれない兄、兄に頼って欲しいという複雑な妹心……それに王女としては、こういった会談の場に出向くことは避けては通れないイベントである。その時が、今になったというだけ。
心配性の兄に色々と仕込まれて、フラーニャはニニムと共に帝国へと足を踏み入れた。ここからフラーニャ王女の快進撃が幕を開けるなどと、誰に予想できただろうか? できるはずもない。
フラーニャが帝国に来た理由の一つに、兄と婚約を結ぼうとしたロウェルミナ皇女への牽制の意図もあった。「このような人に兄を任せられるはずもありません!」と心許すまじと胸を張る彼女だったが、皇女殿下が語る兄との思い出話にあっさりと陥落。彼女の語る兄の素晴らしさに頷き、すっかりと心を許している様子だ。可愛い。
そんなフラーニャが帝国でしたことは、ウェイン王子には絶対にできないことであった。彼女の視界からしか見ることのできない世界、彼女が美しくも可愛らしい王女だからこそできることがあったのだと教えられた。
今回、ウェイン達が巻き込まれる騒動を一言でいうならば後継ぎ争いだ。皇女は一先ず置いておくとして、皇帝には三人の息子がいた。第一皇子ディメトリオ様、第二皇子バルドロッシュ様、第三皇子マンフレッド様の計三人だ。
それぞれを一言で説明すると、第一皇子「馬鹿」、第二皇子「筋肉武人」、第三皇子「知略家」という構成になっている。一人ただの暴言となっているが、それはフラーニャ王女に近づいた罰だ。それに多分、本当に馬鹿だと思うし、彼が皇帝の座に座ったら国が滅びる。
というように散々の言われような第一皇子のしでかした行為を列挙してみよう。「フラーニャ王女に嫌みを言う」「フラーニャ王女を襲撃する命令を出す」「襲撃に失敗したのでフラーニャ王女に妻になるように言い渡す」……彼がいなければ平穏な帝国ライフを過ごせたかもしれない。
……いや、無理かな。黒幕は今回の騒動がなくても動いただろうし。
今回はウェインはあまり活躍していないように見える。冷静になって考えるとそんなことはないのだが、如何せんフラーニャ王女のインパクトが大きかった。この第四巻で彼女の成長を見届けつつ、無能な味方の厄介さを噛みしめよう。
それが正しい楽しみ方であるような気がする。