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天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ (7) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 7 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

泥沼化していた帝国の後継者争いは、長兄ディメトリオが兵を挙げたことで状況が一変する。ロウェルミナ皇女からの要請で帝国にやってきたウェインは、皇女の策略により、一番分が悪いディメトリオの陣営につくことになってしまう。

感想などなど

せっかく手に入れた不凍港が金を食い潰す前に、何とかして貿易の取引相手を手に入れることに成功。こういう言い方は良くないかもしれないが、海洋国家パトゥーラに返しきれない恩を売ったことは、いつか良い結果を見出すように思う。

とにかく色々と好転してきて順調なナトラ。ただ順調過ぎても問題を呼ぶことは、これまでの経験でウェインも読者も身をしみて学んだことだろう。そんな折、東側を支配している帝国の後継者争いに大きな転換が訪れる。

西と東の堺にある国・ナトラにとって、東西の情勢は共に気にしなければならない。とくに帝国の一大事となれば、自身の有利になるように行動をしなければならないだろう。

という訳で、皇帝の座を狙う皇女ロウェルミナからの要請を受け、帝国に駆けつけたのはウェインとフラーニャ王女の二人である。すっかりナトラの顔として注目されつつあるフラーニャだが、なぜ彼女もここに来ているのか。

それはウェインの石橋をたたいて渡る慎重さが出した作戦の一つだったのだが、ひとまず状況の整理から書き進めていこう。

 

帝国は三人の皇子が跡目争いをしていることは、帝国民ならば全員が知っている。とにかく誰かが皇帝になって欲しいという気持ちだろう。牛歩戦術を繰り返している光景が、毎日のようにテレビ中継されている事態を想像して欲しい。「なんやこいつら」と頭を抱えることだろう。

とりあえず早く決めて欲しい……という国民の声が聞こえる。

皇帝になるためには、戴冠式という皇帝になるための儀式を執り行う必要がある。この式の実施を、長兄ディメトリオが宣言したのだ。これにより「ようやく皇帝が決まる」と安堵する声あり、そして、他の皇子が反発することで内乱が起こることを危惧する声もあり。

どう転ぶにせよ、皇子同士の争いというのは避けられない。事実、争いは起こる。

戴冠式をするためには、皇帝の血をひいているという大前提と、祖霊からの承認を受ける洗礼式を受ける必要がある。ディメトリオの場合、前提は良いとして、洗礼式を受けるために都市ナルシラに行く必要がある。

しかし都市ナルシラは現在、第二皇子バルドロッシュが占拠している。どうしても洗礼を受けるとなれば、第一皇子と第二皇子の戦いは避けられない。血気盛んで後先考えないディメトリオは、戦いを避けようという手段を考える頭も余裕もない。

そんな落ち目のディメトリオ陣営に協力せざるを得ない状況に追い込まれた――つまりは貧乏くじを引かされたのが弱小国家ナトラの領主・ウェインである。そしてその状況を作り出した錬金術師が、皇女ロウェルミナである。

ロウェルミナの考えはこうだ。「このままだったら完膚なきまでに叩きのめされるディメトリオだけど、ウェイン送っとけば持ちこたえて、皇子達の力をそぎ落としてくれるでしょう。そこを漁夫の利かっさらって……」といった感じ。

一方ウェインはというと、ロウェルミナ陣営でアレコレするつもりだったところを、早速妨害された。そして貧乏くじを引かされたことも早い内に察し、このまま敗北する訳にはいかないのでディメトリオ陣営を勝たせるべく画策する。

弱い立場からの逆転劇は、いつもしてきたこと。今回、ウェインがすべきことはディメトリオ陣営を勝たせることだとはっきりしている(まぁ、最悪勝たせなくても?)。ロウェルミナの思い通りにはさせまいと始まった帝国の運命を左右する内乱の幕開けである。

 

この第七巻において難しいのは、三人の皇子とロウェルミナ皇女が考えていることを整理し、それにどうウェインが絡んでくるかを理解することだ。単純な一対一の戦いではなく、それぞれの陣営の中での自分の立ち位置が重要になってくる局面において、敵を増やしすぎること、最悪の場合を想定すること……などなど考えることは多い。

視点もかなり入り乱れる群像劇のような描かれ方をしており、時間を空けて読むと分からなくなると思われる。それでも全ての点と点が繋がって、争いの裏にある物語に気づいた時、最後の覚悟ある選択を理解した時、次巻に手が向かっていることだろう。

最後にディメトリオをボロクソにけなしたことを謝罪したい。

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