※ネタバレをしないように書いています。
関係が、少しだけ変わる日
情報
作者:入間人間
イラスト:のん
試し読み:安達としまむら 10
ざっくりあらすじ
安達としまむら、二人の関係が変わっていく日常。
「Fantasy Sister」「Astray from the Sentiment」「Be Your Self」「The Sakura's Ark」「Dream of Two」「The Moon Cradle」「Stay of Hope」「Cherry Blossoms for the Two of Us」「Heart-t」
感想などなど
「Fantasy Sister」
実家に帰省して、昔はよく遊んでくれたというお姉さんとの絡みから、第十巻は始まっていく。FANTASY SISTERというタイトルが付いているだけあって、そのお姉さんの行動・言動はぶっ飛んだものである。
しかも実家の電話越しに「おぱいさわらせてくれる」だの言っている辺り、彼女もまた、しまむらと同じように彼女がいるらしかった。しまむら周辺に関していえば、女性同士の恋愛がマジョリティなのかもしれない。
そんなお姉さんの後、しまむらもまた彼女に電話をかける。さすがに胸を触らせてくれ! とかお願いはしなかろう……多分、おそらく、きっと……安達からなら言いそう。ここで言ってなかったとしても、いつかは言っているかも。
「Astray from the Sentiment」
時間は一気に飛び、二人は高校を卒業し、二人とも家を出て、二人で同棲するために家を出ていくことを決めた。その引っ越しの準備の様子が、安達視点で描かれる。彼女のこれまでの生活のほとんどを占めていたしまむらとの日々が思い出される。
例えば。
安達は中華料理店でバイトしていた。際どいチャイナ服を着て、それを可愛いと言ってくれたから、安達はクリスマスにチャイナ服を着て行った。それから毎年、チャイナ服安達はクリスマスの恒例行事となったらしい。なんとまぁ、サービス精神旺盛な彼女である。
最後に彼女はそのバイト先に顔を出してみた。安達の抜けた後に入った女子高生は、チャイナ服ではなく制服で接客していた。時代は厳しくなったのかもしれない、という安達の心の声に同意である。
その後は青髪宇宙人ヤチーとの遭遇。彼女と安達のファーストコンタクトは、たしかしまむらとの帰宅途中であって、一緒に帰ろうとしていたところに割り込んできたこの小動物に、安達が嫉妬していた時代もあった。
家に戻ればしまむら母との電話に出て、娘をお願いされてしまう。すっかり親公認の関係だ。そうしてこれまでと少しずつ、不器用な「さよなら」をしながら安達は家を出て行く。そんな娘を見送る母の姿と、色々なことを考えて、遠く遠くへと歩を進めながら彼女は幸せになろうと誓った。
「Be Your Self」
安達が家を去った後、安達母としまむら母との会話劇。母と娘はよく似るものだ。
「The Sakura's Ark」
「Astray from the Sentiment」が安達が巣立つ前の準備とするならば、こっちはしまむらの巣立ちの準備とでも書いておこう。といっても時系列的には、引っ越しを決めるよりずっと前――まだ高校生を謳歌している青春の真っ只中だ。
すっかり毒気を抜かれたしまむらは、自分と安達との関係を自覚して、その想いを明確な言葉にして示してくれた。その言葉を伝えた相手というのは、安達でもなく母でもなく、かつての親友・樽見だった。
しまむらは樽見との電話の最中に、「彼女ができた」と伝えた。彼氏ではなく彼女、友達ではなく彼女、と。それを聞いた樽見と、後日の二人きりでの会話が、とても心に重くのしかかってきた。
しまむらの語る安達への想いが確かだと、読者にも樽見にもよく分かる。彼女の語る安達の魅力も欠点も、全ては好きだからこそ故に自然と出てくるものばかりであって、それを聞いているだけの樽見の辛さも、読者は同時に分かってしまう。
最後の樽見の台詞が、あまりにも……あまりにも……。
しまむらにとって樽見はどういった関係の人物だったのか。しまむらにとって、久しぶりにあっても名前を忘れているような、その程度の間柄だった。二人で行った場所といえば、電車で行ける程度のショッピングモールくらいなものだった。
樽見からしてみれば、これからも友達として付き合っていたいようなそういう人で、だからこそ遊びにだって誘った。一度は切れてしまった関係を、ちょっとずつ修復して、これからもずっと続けていくため樽見は頑張っていたことを読者は良く知っている。
彼女は真剣だった。しまむらはその気持ちにどう向き合うべきだったのだろうか?
「Dream of Two」
永藤と日野がいちゃいちゃしつつ、将来のことを語る話。一つ前の話が心にズシッとくる内容だっただけに、これが良い感じに清涼剤となった。いや、甘ったるい菓子と言った方が良いか。
「The Moon Cradle」
同棲生活初日。
引っ越ししてからの荷物を片付けたり、必要なものを買いに行ったり、これから安達は仕事が始まり、しまむらは大学生活が始まっていくという未来を語り、新生活への期待ばかりが膨らんでいくイチャイチャ回。
個人的に「安達はパンを食べる植物」というしまむらの台詞が好きだ。我ながら物好きだと思う。
「Stay of Hope」
しまむら家に残された母、妹、青髪宇宙人の日常回。楽しそうで何より。
今はまだ残っている寂しさとか違和感も、この調子ならいずれ綺麗に整えられていくことだろう。
「Cherry Blossoms for the Two of Us」
「The Sakura's Ark」の少し後の話。樽見との関係に抱えた不和について悩んでいた。安達と一緒にいる時間と違い、樽見と一緒にいる時間には重みがなくてフワフワしていたと明確に言葉にされると、読者としても反応に困る。
しまむらの攻略難易度の高さが、改めて分かる。
きっと彼女にしっかりと重みを感じさせられるのは、安達くらいなのだろう。あれくらいの重さが丁度良いとなると、樽見には些か荷が重かったのかもしれない。ただ重さだけならば樽見も負けていないようだし、そこら辺は重さの傾け方が大事なのかもしれない。
よくぞしまむらを射止めた、安達よ。
「Heart-t」
一緒の布団で眠る安達としまむらの就寝シーンで第十巻は幕を引く。互いの熱を感じられるくらい、心音が重なって聞こえるくらい、二人は近い。