工大生のメモ帳

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安達としまむら9 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

関係が、少しだけ変わる日

情報

作者:入間人間

イラスト:のん

試し読み:安達としまむら 9

ざっくりあらすじ

安達としまむら、二人の関係が変わっていく日常。

「ヤング島抱月」「AKIRA」「TAEKO」「テンペスト ~桜花聖誕帖~」「割り切ってない関係ですから」

感想などなど

「ヤング島抱月」

過去の人間関係は全て精算して、勝手に記憶から消していく女・島村抱月。タイトルからは村が抜けているが、「村を否定して、離れようとあがき始める」というようにかつての自分を評している島村の思いの表れであろう。

(コメント欄で「『ヤング島耕作』のパロディなのでは?」というご指摘がありました。恥ずかしながら存じ上げませんでした。おそらくパロディということで正しいと思います。他のタイトルも何かしらの漫画の名前から取られていますので。情報提供ありがとうございました。)

そんな捻くれた彼女は、中学時代はバスケ部に所属していた。入った理由は「男子と女子で別れていたから」「床にボールをぶつけても怒られないから」というやはり捻くれた理由なのは彼女らしい。プレースタイルもパスをしたりせず、ドリブルで突っ込んでいくワンマンプレーが多かったというのも彼女らしい。

決して人付き合いが下手ということもないと思うのだが、根本的なところで人と距離を取る彼女の性質は、きっと産まれながらのものなのだろう。母親はあんなに人なつっこいのに。

そんな彼女が中学時代で覚えている些細な日常を、ヤチーに語って聞かせるだけの話である。

 

「AKIRA」

日野さんを覚えていらっしゃるだろうか。このブログではあまり語られることはなかったが、安達としまむらのクラスメイトだった子である。ちなみに下の名前は晶という。タイトルのAKIRAは有名SF漫画のタイトルではなく、彼女の名前だろう。

日野家という辺りでも有名なお金持ちの御令嬢で、家族ぐるみの行事では美しい着物姿でいる様が、度々作中でも確認される。そんな彼女が家にいるのが嫌になって、両親に家出の許可を取り付けて家出する話である。

家事手伝いをしてくれる江目さん(初登場だと思う)と、家に泊めて貰おうと遊びに来ていた永藤と共に、車で海辺の宿へと向かった。そこでぐーたらしたり、釣りしたりと過ごす中、江目さんと晶の母親がかつては大親友で、ずっと一緒にいたいから江目さんが日野家の手伝いをかって出たという話を聞く。

好きな相手とずっと一緒にいるための方法、その一案を聞いた晶は、永藤を見つつ何を思うのだろう。

 

「TAEKO」

永藤さんを覚えていらっしゃるだろうか。このブログではあまり語られることはなかったが、安達としまむらのクラスメイトだった子である。ちなみに下の名前は妙子という。タイトルのTAEKOは彼女の名前だろう。

メガネを掛けて、出ているところはかなり出ていて男子からの視線が悩みのタネである精肉店の娘。御令嬢の日野晶の大親友である。記憶力のなさで弄られることが多い彼女が、晶との出会った頃の思い出を精密に語ってくれる。

どうやら出会いは幼稚園であったらしい。互いに出会ってすぐに意気投合。江目さんに送り迎えしてもらうついでに永藤の家に遊びに来た日野。日野がお金持ちであるということを知っていた永藤両親の慌てふためきようが面白い。

ここから全てが始まって、高校生に至る今まで続く関係性が築かれたと思うと感慨深いものがあるのは、自分だけだろうか。微笑ましいエピソードであった。

 

「テンペスト ~桜花聖誕帖~」

クリスマスがやって来た。

当然ながらこの聖夜――夕飯までの僅かな時間を、昨年と同じくチャイナ服に身を包んだ安達と、クリスマスプレゼントを買い忘れた島村の二人で過ごす。目立ったイベントはないが、二人で愛を確かめ合うような濃い内容の会話が繰り広げられていく。

「一日にどれくらい私のことを考えてる?」と面倒くさい安達の質問に、律儀に答えてくれる島村の優しさ。そんな心配を掛けさせてしまったことを反省し、どれくらい安達のことが好きか、その伝え方を模索する島村。

島村も随分と丸くなってしまったものだ。電話に対してめんどくさと答えた彼女はどこへ行った。他人の顔と名前など瞬時に忘れてしまう彼女は、安達のことを忘れてくないと思ってくれた。

これはもう立派なカップルではないか。尊い時間であった。

 

「割り切ってない関係ですから」

夕飯になると島村の家で、島村家族とともに食事をする約束をしていた安達桜。島村家に向かってみれば、自分の母親がいるのだから驚きである。なんといつの間にか母親同士が仲良くなっており、島村母が安達母をクリスマスに家に招いたのである。

こうして一緒の食卓を囲うことになる安達両名。不器用な関係性の二人が、不器用に会話する様が何とも言えず微笑ましい。きっとこの関係性は変わらないだろうが、きっと大丈夫だろう。

そんな安心できるエピソードであった。

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