※ネタバレをしないように書いています。
絶望と仲良く
情報
作者:つくみず
試し読み:少女終末旅行 6巻
ざっくりあらすじ
文明が崩壊してしまった世界で、ふたりぼっちになってしまったチトとユーリ。愛車ケッテンクラートに乗って、廃墟を当てなく彷徨う彼女達の日常。
感想などなど
「吹雪」
「これが最終巻なんだ」と思いながら、この第六巻を開いた。ここまでの旅を読んできて、終わりを見たくないようで見たいという奇妙な感覚に襲われている。そんな最終巻の始まりは、吹雪く夜だった。
吹雪は雪と風のダブルパンチで、人の体力を奪っていく。運転しているチトなんかは特にキツイ。という訳で、柱の陰にケッテンクラートを止め、雪をかき集めてカマクラを作った。そこで一晩を過ごす。
寒さで体を震わせながら、二人が身を寄せ合って暖を取る光景は、仲のいい二人の関係性の微笑ましさと、そうしなければ寒さで死んでしまう終末感が両立している。やはり不思議なマンガだと思う。
読者である自分も、絶望と仲良くなってきたかもしれない。
「宇宙」
宇宙に行きたいという願望は、人間の本能なのかもしれない。
宇宙へ飛び立つロケットの置かれた施設に足を踏み入れたチトは、そんなことを言った。
好奇心によって、ロケットというものを見てみたいと思った二人と同じように、宇宙に行きたいという希望を抱いてしまった人類。その研究の過程で作り上げられた技術は、人類に大いなる前進をもたらしたかもしれない。しかし、ロケットを調べようとして、崩れていくロケットに巻き込まれて死にかけた二人のように、犠牲者も多く生み出したのかもしれない。
施設にあった資料に描かれたバツ印は、何を示しているのか?
きっと失敗して崩れていったロケットもあったのだろう。
逆にそのバツ印がないロケットもあった。そのロケットは、宇宙に飛び立ち、一体どこまで行ったのだろう。宇宙の限りない可能性の彼方に、人類が生きているのかもしれない。
「図書」
チトは本好きだ。そんな彼女にとっての楽園にやって来た。タイトルにもなっている ”図書” 館である。その膨大な書庫の貯蔵を目にして、これまで人類が記した言葉の全てを集めると宇宙に匹敵するという言葉を聞き、「まるで言葉の宇宙だね」と言ったユーリは、詩人だと思う。
「いつかすべて終わると知っていても 何かをせずにはいられない」
チトは、これまで出会った人達――地図を作るカナザワ、飛行機を作るイシイ――を思い出しながら、つないできたそのバトンの最後に自分たちがいることを想像した。もうこの世界には誰もいないのだから。
「喪失」
ケッテンクラートが壊れてしまった。
もう寿命だ、とチトは言う。修理するためにバラしつくしての結論だった。
中身を取り出され、残った機体に雪を詰め、もう必要のない燃料に布を浸して燃やし、もう最後かもしれない風呂に入った。終末世界を背景に、風呂に入って大声上げて泣くチトは、残った酒を飲んでいる。
この喪失感はなんだろう。ただの移動手段がなくなっただけなのに。
きっとこの旅は、チトとユーリとケッテンクラートの旅だったのだと思う。だからこそ、壊れたことの喪失感が心を襲うのだ。
「睡眠」「沈黙」「終末」
ケッテンクラートを失って、荷物を背負って歩くしかなくなった二人。缶を撃って練習した銃も、図書室で手に入れた本も、重りになるから減らしていく。銃は階下に投げ捨てた。本は燃料の代わりに燃やして、お湯を作った。
かつてユーリが燃やしかけた本も、燃料としてくべられた。
「たぶん忘れるのが怖かった」とチトは本を大切にしていた理由を語る。でももう大丈夫。「まだ生きてる」から。本の火で作ったコヒは美味しいし、眠ることもできている。
そんな二人は最上階への階段に辿り着く。明かりはない暗闇の中、二人は手を握って登っていく。
そうして辿り着いた最上部。そこで二人はいつものように会話して、食事して、眠る。
「生きるのは最高だったよね……」「……うん」
この瞬間、二人は世界で一番幸せだったのだ。
二人の何気ない ”いつも通りの会話” が。 ”何かをせずにはいられなかった” 二人の結末が。言い表せない感動で、心が埋め尽くされてしまった。見開きで描かれる、二人の見上げた夜空。美味しそうに食べる食事。その全ては、是非とも漫画で読んで欲しい。
最高でした。