※ネタバレをしないように書いています。
ラスボス飼ってみた
情報
作者:永瀬さらさ
イラスト:紫真依
ざっくりあらすじ
『聖と魔と乙女のレガリア4』でルシェルと結ばれるはずだったという運命に則って、ヒロイン・アメリアの語る正ルート通りに進んでいく。そして、クロードの人格が魔王ルシェルに乗っ取られてしまう。
感想などなど
永世中立国・ハウゼル女王国の女王選抜試験ということで、クロードとの愛を育むために魔王城に押し寄せてきた女王候補達。アイリーンやクロード達の苦心により、次々と候補達を失格させたりしてきたのだが、アメリアという女だけは運命の力で守られているかの如くクロードとの繋がりを強めていく。
乙女ゲーム世界に転生する系の作品ではありがちな、ゲームのルートに戻そうとする強制力=運命の力という等式が、ここに来て猛威を振るっているのだろうか。いや、それにしたってこの強制力はおかしくないだろうか。
そもそも第一巻からして、ゲームのストーリー通りに進むのであればリリアとクロードが結ばれるはずであった。アイリーンが無理やりクロードと婚約すると言い出さなければ、これまでの物語が成立しない。
ここで何かゲームによる強制力が働いただろうか……まぁ、リリアの妨害はあったにせよ、クロードの感情が無理やり捻じ曲がるというようなことはなかったはずである。二作目における悪役令嬢・レイチェルが、アイリーンのお付きになる未来など来るはずがなかったである。
それがここに来て、心を歪めるような強制力の発動……これはあまりに違和感がある。ただクロードは男が惚れる最強の漢、アイリーン以外の女性と婚約してしまうくらいならば、心がルシェルに支配されるくらいならば、覚悟を決めた彼の自爆行為は、読者のみならず部下達も驚かせた。
これが愛のなせる技か……まぁ、彼の自爆もむなしくクロードは魔王ルシェルに支配され、アメリアとの愛を育むべく行動を開始することになってしまうのだが、それをどうするかの戦争が第六巻から始まっていく。
この第六巻では『クロード様を取り返す』ための戦争と、『ルシェルとアメリアの真実』を突き止めるための調査の二本が同時並行で進んでいく。クロード様強すぎ問題に改めて頭を悩ませつつ、ルシェルの妻――つまりはクロードの母であるグレイスについての真実が語られていく。
戦争についてはとりあえず置いておくとして。
真実については、聖王の妻である水竜が運んできたアメリアの日記を読み進めていくことで、『聖と魔と乙女のレガリア4』のストーリーを追体験していくような形で真実を理解することとなる。
その内容はゲームをやり込んだリリアにとっては予想外のものとなっていた。正ヒロインであるはずのアメリアが、どうしてルシェルと結ばれなかったのか? クロードはどうしてアメリアの姉であるクロードに惹かれたのか?
乙女ゲームでは描かれなかった、ヒロインの抱えた感情が日記には吐き出されていた。愛の力は一つの国を救うこともあるが、愛の狂気は自分の姉ですら殺してしまうという悲劇が、そこには描かれていたのだ。
その狂気は、まさか運命すらも支配してしまうのだから恐ろしい話である。
先ほども述べた真実を知ったことで、クロードを取り返す世界を巻き込んだ戦いでどうすれば良いかの指針を決めるために必要であった。そこでも最後の決め手になるのは、結局のところ愛である。
ラストの夫婦喧嘩は見物である(些か一方的な気もするが)。熱くもあり、微笑ましくもある最終決戦であった。