※ネタバレをしないように書いています。
勇者を殺せ――そのために転生を
情報
作者:月夜涙
イラスト:れい亜
ざっくりあらすじ
勇者誕生の知らせを受けたルーグは、王立騎士学園で会えることを知り、ディア・タルトと共に入学試験を受けることに。暗殺者としての技を披露することなく、他を圧倒したルーグであったが、勇者の化物じみた力も目の当たりとする。
感想などなど
第一巻はルーグが強くなる下地として、専属メイドにして助手のタルトの育成、物資援助・資金援助・情報収集などのバックアップを担うマーハの二人を仲間に取り入れ、暗殺者としての立場ではなく愛する者のために ”暗殺” を行い、ディアを守ったルーグの話でした。
最後、敵を倒すために放ったゲイボルグの威力たるやかなりのものでしたね。
もしかしたら、これで勇者も倒せるかもしれない。そんな微かな希望が打ち砕かれる第二巻が始まっていきます。
二巻のあらすじとしては、王立騎士学園に勇者も通うということを知ったルーグ。勇者に近づき、情報を得て仲間として取り入るために、同じく王立騎士学園に入学することに決めた。そのためには入学試験に合格する必要があるのだった。
とまぁ、こんな感じ。試験の合格自体は、それほど難しい話ではない。勉学・魔法・戦闘のスキルにおいて、ルーグやタルト、ディアに勝る者はそうそういない。ルーグは言わずもがな。タルトは実践に投入され、殺しのスキルを磨いている。ディアの魔法の才能は、人類最高クラスと公式で紹介されている。
だが、この入学試験に二つの縛りがあった。
まず勇者と同じクラスになるために、学内でもトップクラスの成績で入学しなければいけない。縛りとは書いたが、実際のところ難しい話ではなかった。勇者の筆記試験の成績はあまりよろしくなかったり、勇者といえど全てが完璧という訳ではなかったのだ。
次に、ルーグ達は暗殺術を見せてはいけない。暗殺者であるということを悟られてはいけないのは勿論のこと、いずれ殺さなければいけなくなる勇者に対して、自身の手札を曝け出すのは得策ではないからだ。
そんな縛りがありながら、入学試験を難なくクリア。それも全て、これまでの積み重ねがあったからである。そんな彼と肩を並べんとする精鋭が、この学園にいるという情報を掴むことができたのは、良い収穫だったと言えよう。
精鋭ばかりが集められた学園においても、勇者の戦闘能力は群を抜いていた。
ルーグの大きな武器の一つは、父に手術を施された魔眼である。それは周囲に漂う魔力を視認することができ、遠く離れた場所を見る望遠の力も兼ね備え、さらに驚異的な動体視力も持っているという万能な目だ。その目を持ってしても、追いつくことがやっとの速度で動くことができる人間がいる。
勇者エポナである。
ルーグとディア、タルト、その他大勢の騎士が苦戦を強いられたオーク100体を、瞬殺し、ついでに周辺の騎士達までも巻き込んで殺そうとした人間がいる。
勇者エポナである。
その戦闘能力の高さは歴史上で一番とされており、作品を読み進めていくことで開かされていく勇者の持つスキルの数々は、正しくチートと呼ぶに相応しい力を持っていた。これでも勇者としての力は目覚めたばかりで、使いこなすことができていないと言われているのだから驚きだ。
これからこの王立騎士学園にて、魔王を倒すことができるくらいにまで訓練を積むこととなる。そして魔王を倒すころには、一体どれほどの実力を持つことになるのか。それを殺すことになる身としては、あまり考えたくない部分だろう。
事実、この第二巻においてオークを始めとした魔族との戦闘も繰り広げられる。その中でルーグが一番恐れていたのは、魔族よりも何よりも勇者であった。なにせこの勇者、我を忘れると周辺を巻き込んで大暴走し、人だろうが魔物だろうがお構いなく殺してしまうのだ。
つまり、強さとは裏腹に心が弱い。そのことを知って、自身の力をセーブしがちだというのだ……セーブしてもこれか? という絶望感が半端じゃない。
そんな勇者エポナの隣に立つことができる男だと示せるよう、最善な形で全力を尽くす男ルーグ。彼の戦いはまだまだこれから。
この第二巻で万策尽きた感もあるが、それがきっかけで希望も見えた。勇者暗殺への大きな第一歩が踏み出せたエピソードであった。