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最果てのパラディンⅢ 鉄錆の山の王〈下〉 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

こんどこそ、ちゃんと生きたい

情報

作者:柳野かなた

イラスト:輪くすさが

試し読み:最果てのパラディン III 〈下〉 鉄錆の山の王

ざっくりあらすじ

勇気を振り絞り、竜ヴァラキアカを討伐しに向かうことにしたウィル。故郷である死者の街で装備を整え、《鉄錆山脈》に向けて、かつては栄華を極めたエルフの森に足を踏み入れるが……。

感想などなど

不死神に妙に好かれてしまった聖騎士ウィル。彼が本当の勇気というものを知り、竜と戦うという決意を抱き、村を出たウィル達一行。その内訳は、ウィルを筆頭に、ドワーフのゲルレイズとルゥ、冒険者のレイストフ、相棒のメネルという布陣だ。

盤石じゃん……という方は認識が甘い。

不死神が今のルゥでは倒せないと言ったのは、意地悪という訳ではなく、明確な根拠があるが故。そんな竜の強さの秘訣を、ガスおじさんはこう語る。

竜は《ことば》に最も親しい存在だ、と。

あの巨体が空を舞うことができる理由は、科学的・物理的にはきっと説明できないのだろう。《ことば》に近しいからこそ、そんな不可能を可能にし、自由自在に空を飛び交うことができるのだ。

そんな不可能を可能にしてしまう竜――その中でも神にまで恐れられる伝説上の存在を相手取って、ウィルは勝たなければいけない。その道は大変に険しい。

まずは死者の街を通らなくては……あぁ、ここはウィルの故郷でした。失礼しました。だが、この街もアンデットが歩き回る危険地帯。ウィルでなければ無事ではないだろう。

そして竜の住まう場所――つまりはドワーフたちのかつての住み処《鉄錆山脈》――へと向かうためには、不死の街から川を渡り、エルフの森《花の国》を抜ける必要がある。その名が示すように、そこら一体は素晴らしい世界が広がっていたのだろう。しかし、もうその面影はない。酷い有様である。

まず川を渡ろうとしても、大水蛇の襲撃に遭う。足場の悪い船の上での戦闘は厄介なことこの上ない。それを抜けたかと思いきや、次は猛毒を持つヒュドラが現れた。流石は竜の住み処への道中とでもいうべきか。敵のレベルがこれまでとは一味違う。

辺りに立ちこめる濃い呪いの《忌みことば》。その名が指す通り、周囲を呪い分断し、まだ生き残っているエルフ達をじわじわと苦しめて殺すために、悪魔たちが施しているのだ。それにより、精霊たちは力を弱め、エルフも次々と死んでいく。

それを見てウィルも、「――滅ぼさないと」と呟いた。読者も同じ気持ちである。

 

竜の前に立つだけでも、かなりの戦闘を繰り広げることとなることは、これまで語った通りである。大水蛇とヒュドラだけに飽き足らず、悪魔たちも姿を現し、さらに悪趣味なことに、かつて竜と戦ったドワーフたちが、アンデットとしてウィルたちの前に立ち塞がる。

竜は今、ただ眠っているだけ。それでここまでの邪悪を振りまいている。もしも目を覚まして、本格的に暴れたらどうなるか。あまり考えたくない最悪な未来が待っていることだろう。

それを避けるために、ウィルはここまでやって来た。

竜との戦いは、ウィルと、多くの人達の支えによって成り立った。そんなウィルの勇気の行く末は是非ともその目で読んで確認して欲しい。互いに全力でぶつかり合い、そして迎える決着。

王道だが、だからこそ外れない。そういう作品であった。

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