工大生のメモ帳

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涼宮ハルヒの動揺 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

語り継がれる伝説

情報

作者:谷川流

イラスト:いとうのいぢ

試し読み:涼宮ハルヒの動揺

ざっくりあらすじ

文化祭で描かれなかった裏側エピソードや、冬休みの山荘事件後の推理ゲーム、長門に一目惚れした男が現れたり? といった波乱に満ちたSOS団の日常を描いた中編小説集。

感想などなど

『ライブアライブ』

「涼宮ハルヒの退屈」で描かれたSOS団の映画が、放映された文化祭当日、裏側の話である。このエピソードを読んで、涼宮ハルヒに対する印象が変わった者もいるのではないだろうか。

あらすじとしては、何の気なしに劇やライブが行われる体育館の舞台に、キョンが足を運んでみると、ハルヒと長門がバンドメンバーに加わって演奏している姿があった……というだけの内容である。

ハルヒは誰もが聞きほれるくらい驚きの歌唱力であった。神は二物を与えないというが、それは嘘だ。ハルヒは運動に勉強のみならず、音楽の才能まであったという。そもそも彼女を神としている機関・団体もあるくらいなのだから、二物どころか世界を貰っている。

ハルヒと長門は、練習によって喉を潰して声がでなくなったボーカル兼ギターの女の子の代わりとして参加した。声が出なくなったのは、当日いきなりのことであったため、楽譜を渡されてもハルヒ一人では歌うのが精一杯ということで、占い師の格好をした長門が急遽ギターとして参加。

元々のバンドを喰う勢いであるように感じたが……ハルヒのちょっとした気遣いと願いが、彼女らの未来を変えたことは言うまでもないであろう。珍しく(というか初めてではなかろうか)ハルヒの動揺した表情を見ることができたのも新鮮な一幕であった。

 

『朝比奈みくるの冒険 Episode00』

文化祭で放映された映画、そのままをまとめた短編。

まぁ、酷い内容である。だが、裏側を知っている身としては「このシーンはアレかぁ……」「キョンはよく編集したなぁ……」と感心するばかりである。ファンサービス的な内容であった。

 

『ヒトメボレLOVER』

長門有希に一目惚れし、キョンにわざわざ電話をかけて、彼女に対する愛を赤裸々に語る男が現れた。どうやら半年ほど前に、街中でキョンと長門が歩いている姿を見かけて以来、長門に対する悶々とした恋愛感情ばかりが募っていく辛い時期を過ごしたようだ。

そんな彼がキョンに対して語った電話の内容、つまりは長門に対する熱い想いは、なかなかに酷い。女性の中には、そこまで熱烈に思われることを嬉しく思い、感動する朝比奈さんのような方もいるかもしれないが、愛の重さと束縛の厳しさは等号で結ばれる説を唱えたい。

キャッチボールよろしく、こちらが押し付けた愛情の剛速球に、相手も応えてくれると期待するその傲慢さは、時に前科を重ねかねないことを推して知るべきである。ちなみに長門に想いを向けるその男は、自身が立派な男になった暁に迎えに行くから待っていて欲しいと宣った。

……そんな男の熱い想いを、キョン経由で受け取った長門有希の反応は、意外にも「一度会ってみたい」という前向きなものであった。あぁ、ついに有希にも春が来るのか。

そんな恋愛物語のラストは、切ない。

冒頭からは想像もできない淡い恋物語であった。

 

『猫はどこに行った?』

雪山で遭難し、山荘で散々な事件に巻き込まれた後、山荘で小泉が企画したミステリーを解決する短編。ハルヒを満足させるとか、そういった趣旨の内容だったように思うが、いつの間にか小泉自身も企画することを楽しんではいないだろうか。

現実でやるにしては、些か偶然に頼りすぎている気もすると読み終えた後に思うが、現に上手くトリックが嵌って、全員にアリバイがあるというミステリ展開が作り出され、人が一人殺されてしまった(あくまでフリであるが)。そのトリックを解き明かすために、頭を回転させる御一行。

そのトリックの鍵を握っているのは、タイトルにもなっている猫である。

ちなみに本当に全く関係ない話だが、『完全犯罪に猫は何匹必要か?』というミステリを最近読んだ。面白かったのでお勧めである。小泉一樹に習うならば、完全犯罪に猫は――匹必要である。

 

『朝比奈みくるの憂鬱』

朝比奈みくるにデートに誘われて、買い物に行く話。といっても、未来人である彼女との愛を育むことはあってはならない。彼女には何かしらの目的があって、キョンとのデートに赴いたのだ。

その目的は……ふむ、朝比奈みくる自身も分からないらしい。どうやら未来からの指示で、キョンとの買い物に出かけたようなのだ。

これまで朝比奈みくるは未来人でありながら、我々現代人と同じような視点で事件に巻き込まれていた。朝比奈みくる(大人の姿)が出てきてくれなかったら、どうにも未来人っぽくない印象を受ける。

なにせ彼女には《禁則事項》が多すぎて、聞きたいこと、肝心なことを話してくれなかったり、そもそも知らなかったということが多すぎるのだ。読者ですらそんなことを思うのだ。彼女自身、自分の頼りなさに落ち込み、今回、キョンとの買い物に出た理由を知らされていない自分の不甲斐なさに対して溜息ばかり漏らしている。

しかし、朝比奈さんよ。今のあなたが必死に頑張ったからこそ、朝比奈さん(大人の姿)が現れているのですよ……と言いたい気持ちをグッと堪え、今日という日にキョンと朝比奈さんが外に出なければならなかった理由が分かった時、些細な行動が未来を大きく変えてしまうバタフライエフェクトの壮大さを知る。

世界を変える行動は簡単で、変わったことに気付くのは難しい。そう思った一幕であった。

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