工大生のメモ帳

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狼と香辛料Ⅴ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

商人として、最大の幸せは。

情報

作者:支倉凍砂

イラスト:文倉十

ざっくりあらすじ

ホロの伝承が残るとされている町レノスを訪れた二人は、ヨイツの手がかりを探す。そんな中、ロレンスは宿で大きな商談を持ちかけられる。

感想などなど

やってまいりました第五巻。おそらく、ホロとロレンスにとって大きな転機の回であり、個人的に好きなエーブの初登場回。狼と香辛料で何度も何度も問われるであろう ”旅の終わり” と ”ホロとロレンス” に対してひとまずの決着を付ける戦いの幕開けです。

早速読み進めていきましょう。

 

この旅の目的を覚えていますでしょうか?

ロレンスが行商人としての業務を怠りつつ(実際は怠っておらず、むしろ頑張ってる気が……)、ホロの賢狼としての神話を集め故郷の場所を探すことにあります。そのせいで処刑されそうになったり、借金地獄に落とされそうになったします。

では、今回は……?

商売をしようにも前回特に商品を入手できたわけではありません。訪れるレノスで売れるようなものが、今回はないのです。純粋にホロに関する書籍を漁るなり、話を聞くことのみが目的です。

あぁ、じゃあ今回は大人しく過ごすんだな。楽しい経済の話は聞けないのかな。

と、そう簡単にいくはずもありません。ロレンスの商人としての鼻が、お金の匂いを嗅ぎつけます。

 

レノスの街に着けば、外壁の外に多くの商人が納得いかないといった面持ちで面持ちで列をなしています。中に入ろうと検問を通れば、今までいなかったような屈強な男から変な木片――仕入れの際にはなければ物を売って貰えない許可書のようなもの、を手渡されます。どこを見ても、ピリピリとした空気が張り詰め、50人会議と呼ばれる謎の会議が開かれ、毛皮などの売買は禁止されているご様子。

何も知らない住民達や平凡で並な商人達からしてみれば、ただただ不愉快なものでしょう。物を買い付けに来たら許可されなければ入れないし、入っても特産物とも言える毛皮が買えないので、とんだ大損です。ただそこにいるというだけでも、少なからず大好きなお金は飛んでいくのですから。

しかし、ロレンスはただの平凡な商人ではありません。ホロに巧みな会話を交わすことで鍛えられた話術に、商人としての並々ならぬ嗅覚が、徐々にこの街に起きている事態の真実に近づいていきます。

今回の事件をざっくりとまとめると、「本来得られるはずの儲けが得られないから、むりやり商人から搾取してやろう! 別にいいよね!」といった感じでしょうか。ざっくりとしすぎている感もありますが、それほど外れていないと思います。

ちなみに儲けようとしているのは、街の教会。権力を持ってしまうと、さらなる儲けや力を得てしまうのでしょう。人の向上心という奴は毒にも薬にもなるのだな、ということを教えてくれます。

 

さて、個人的に好きなキャラ・エーブについて語らなければ、この五巻についての感想は書けないでしょう。この事件の中心人物であり、ある種ロレンスが辿っていたかもしれない未来を見せてくれる人物でもあります。

彼女がどのように事件に関わっているのかについては、伏せさせていただきますが、彼女が今回の事件での鍵を握っていることだけは言っておきます。

彼女は商人としての腕はおそらくロレンスよりも上でしょう。彼女の張った罠と策略は感嘆せずにはいられません。商人としての理想と言っても過言ではないように思います。

金を稼ぎ、終わりなく更に金を稼ぎ、死ぬその瞬間まで金を稼ぎ続けるだろう商人としての理想の姿がありました。

……しかし、金を稼いだ先には何があるのでしょうか?

ロレンスも彼女に問いかけます。「何故金を稼ぐのか」と。自分だって商人のくせにです。

そのときの彼女の叫び。今後の展開を考えると、かなり感慨深いものがあります。

商人としての金を稼ぎ続ける道を選んだエーブと、彼女に金を稼ぐ理由を問いかけたロレンス。商人として、一人の人として、ロレンスは一体どんな選択をするのか。

大きな転機の回でした。ある意味、ここからホロとロレンスの旅が再び始まったのです。

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