工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術13 感想

【前:第十二巻】【第一巻】【次:第十四巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

魔王(演技)

情報

作者:むらさきゆきや

イラスト:鶴崎貴大

試し読み:異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術 13

ざっくりあらすじ

ゲルメド帝国によってリフェリア王国は占拠されてしまう。その際、レムを守るため魔導機兵を魔術で攻撃し、初めて人を殺めてしまう。平和を望むディアブロの思惑とは裏腹に、侵略を続ける帝国。この戦況をひっくり返すにはディアブロ単身で乗り込むしかないと考えるが……。

感想などなど

帝国と王国との戦争というよりは、一方的な侵略という方が正しいように思う。

王国の持つ戦力は決して弱くはない。かつて魔王軍と戦ったというだけあって、技術も武具も高水準であり、兵士の士気も高かった。しかし帝国の持つ魔導騎兵はそれを上回る火力と耐久力で、王国軍を圧倒した。

そのまま王都は陥落し、王は殺された。コボルトの一件で対立したとはいえ、ここまで蹂躙されたことを手を上げて喜ぶような趣味はない。もしもディアブロがいなければ、兵士は一人残らず殺されていただろう。

そう、ディアブロがいなければ。

魔導騎兵に対抗できるだけの力を持っている者は、現状だとディアブロしかいない。他だと剣聖ササラくらいなものではなかろうか。しかし、二人とも孤高を愛し、群れて戦うことを好まない者である。軍隊を率いて戦うようなスキルもなければ、鼓舞するようなスキルもない。

しかもディアブロは人を殺したことがなかった。人としては正しいのだが、兵士としては致命的だ。引きこもり気味のゲーマーに、兵士として人を殺す心構えを求めるのは酷すぎるのだが、彼は魔王でロールプレイングしている人間だ。「殺せません」とはいえない。

前巻でレムをさらおうとする魔導騎兵に、全力で魔法を放ち破壊した。これにより中の運転手は死んだだろう。つまりは初めて人を殺めた訳だが、それにより彼の心労はピークに達した。

吐き気に襲われつつ、吐き出したい弱音をぐっとこらえる。人と人が争う戦争が起きているということを実感し、これから先どうすればいいか考えようとするも思考がまとまらない。

そんな中、なんとディアブロが魔法で破壊した魔導騎兵の乗組員の一人が、捕虜として捕まっていることを知る。

 

どうやら魔導騎兵に乗っていたのはヴァンパイアのハーフだった。ヴァンパイアは簡単には死なない治癒能力があり、ディアブロの魔法を受けても死にはしなかったようだ。とにかく一人でも生き残ってくれたことにディアブロは安堵し、ほっと胸をなで下ろす。

そして捕虜となったヴァンパイアのハーフ・エリーナは静かに語り出す。それはゲームでは明かされていなかった魔導騎兵の設定と、帝国が行っている人道に反した行為の数々だった。

まず魔導騎兵とは単純な人が乗り込んで運転するようなロボットではないらしい。なんと魔導騎兵は、乗り込んだ人間の心を読み、満足できない者は取り込んで捕食するのだという。つまり適合した者しか乗り込むことはできないということだ。

その適合者を探すため、方々から《奴隷魔術》をかけて人間を集め、魔導騎兵に適合するかどうか試験する。試験に失敗した者――つまり適合した者は魔導騎兵に捕食され、成功した者は《奴隷魔術》によって魔導騎兵に乗って戦場に駆り出される。

魔導騎兵に捕食されるか、戦場で死ぬまで戦わされるか。どちらかを選択する権利はない。そうして自らの意思とは違って、戦場に送り出されている者達で、帝国の軍隊は構成されている。

そんな事実を知ったディアブロ。そんな彼にエリーナは、他の者達を助けるために侵攻軍司令官ドリアダンプという男を倒して欲しいとお願いされる。常識的に考えて、そんなお願いを引き受ける酔狂な者などいない。

ただしディアブロは魔王である。演技とはいえ、彼はこの状況でもその矜持を忘れたことはない。彼は魔王らしく高らかに宣言する。かっけぇんだわ、王道ながらその展開が。

ディアブロさん、どうかかっこいいところを見せてくれよ。

 

とにかく戦況を変えるためにディアブロが考えた作戦は、単身乗り込んでめちゃくちゃにするというものだ。作戦? どうにも違う気がするが。

しかしそれでは勝てない。これまで一人で戦ってきた彼は、その経験から生まれる慢心と、コミュ症であるが故に頼み方を知らないという重大すぎる欠点があった。頼み方を知らないと、困った時に人を頼るという選択肢が自然と消えてしまう。

しかし彼は今は一人ではない。武闘派一家の娘だと判明したレム、弓の技術は随一だと判明したシェラ、尿を捧げてチートアイテムが仲間になったホルン、魔王を崇拝するアリシア、教会の最高権力者ルキマーナ、最強の魔王クルム……こうして列挙してみると癖が強いながら立派な戦力となりうる仲間達がいる。

彼は戦争を止めることはできるのか。より強大な敵が現れたり、敵の予想だにしない戦略が判明したりと、急展開の多い第十三巻であった。

【前:第十二巻】【第一巻】【次:第十四巻】
作品リスト