工大生のメモ帳

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薬屋のひとりごと2 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

毒味役少女の事件簿

情報

作者:日向夏

イラスト:しのとうこ

ざっくりあらすじ

後宮女官を解雇された猫猫は、花街に戻ってきた。しかし、すぐに壬氏のお付きとしてすぐに出仕することとなる。すると忽ち、倉庫の小火や官僚の食中毒、腕利き職人が残した不思議な遺言の調査など奇妙な事件や事故が多発する。

感想などなど

プロバビリティーの犯罪というものを御存知だろうか。死ぬかもしれないし、死なないかもしれないという方法で行う殺人のことである。

例えば。

殺したい対象者が毎日使う屋外の鉄骨階段、その一段に細工をして錆び付かせておく。そこを踏んだ際に、もしかすると壊れて落ちてしまうかもしれないように。落ちたとしても死なないかもしれないし、死ぬかもしれない。

例えば。

殺したい対象者が毎朝のルーティーンとして薬を飲んでから、車で出勤するとする。薬の中に一錠だけ睡眠薬を混ぜておくと、出勤している最中で眠気が襲ってくることになる。薬の効果の強さにもよるだろうが、死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。

上記の例は全て一応、とある小説で使われたネタである。ネタバレを避けるため、少しばかりオリジナル設定を混ぜてはいるが。

本作ではもっと手間のかかるプロパリティーの殺人が行われる。たった一つの殺人を起こすためだけに、数多くの事件が引き起こされていくのだ。全く関係のないと思われた事件が繋がっていく過程は心地よい。

 

さて、本作はネット小説であるが故、第一巻同様に、この第二巻を通して一つの事件を解決する訳ではない。大きく分けると、前半で書いたプロバビリティーの犯罪のような事件と、羅漢という武官(戦争で色々する人)の狙いを探る事件の二つに分類される。それぞれ『プロバビリティー事件』と『羅漢事件』とでも名付けておこう。

そしてそれぞれに明確な黒幕というものが存在する。

『プロバビリティー事件』における黒幕は中盤までその影すら感じさせない。猫猫がいなければ、黒幕が行ってきたことは事件としても認識されることがなかっただろう。そして、その正体が分かった後も、ずっと圧倒的な黒幕であり続けてくれた。

ミステリーが一番面白いのは、謎が解き明かされるまでの過程であろう。そのため犯人が分かった後は、盛り上がりに欠けたりする。そこをどう盛り上げるのかは、作家としての構成力が問われる重要な観点だと言える。

本作において、そこは満点だったと言って良いだろう。今後にも期待したい。

さて、『羅漢事件』に関しては少しミステリーとしての赴きが異なる。事件もといミステリーというよりは、羅漢という男の過去や正体を知っていくことで、これまでの行動に納得できるというような構成である。

一つネタバレをするならば(ネタバレと言っても前半部で明かされる情報だが)、羅漢は猫猫の父親である。

どうやら猫猫自身、そのことは認知しているようだ。しかし、彼の話が出てくる度に顔をしかめ、可能な限り会いたくないというように行動する。その理由は何だ?

父親が羅漢だとすると、母親は誰だ?

羅漢が父親であるという情報だけで、数多くの疑問が脳内で駆け巡っていることだろう。それらの答えは全て、第二巻に載っている。

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