工大生のメモ帳

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薬屋のひとりごと3 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

毒味役少女の事件簿

情報

作者:日向夏

イラスト:しのとうこ

ざっくりあらすじ

玉葉妃の妊娠により、再び後宮に戻って来た猫猫。皇帝の寵妃ということもあって、それは秘密厳守。しかし、女達の腹の探り合いは日常茶飯事で、猫猫も巻き込まれていく。

感想などなど

よくお年寄りが「最近の若者は!」と嘆く声が聞かれるが、そう言う貴方方も昔はそう言われていたに違いない。それに今と過去では社会情勢や常識、トレンドなど変わっていく。同じ尺度で測ることなどできないはずだ。

しかし、時代と国が違えども変わらないものは確かに存在する。それは『物語の面白さ』と『人の醜さ』だ。

ブログ主がラノベなど含む多くの物語を愛しているように(よく勘違いされるがブログ主はラノベ以外もたくさん読む)、昔から物語をこよなく愛する人々はいたのだ。平安時代の源氏物語しかり、江戸時代の東海道中膝栗毛しかり、歴史を反映する物語というものは時代を超えても愛されている。

猫猫のいる後宮においても、どうやら物語の波というものはやって来たらしい。紙が貴重な時代背景であるものの、人の心を掴んで離さない物語は多くの人に求められた。ゲスな言い方をするならば、良く金になる。

しかし、識字率が残念なことこの上ないため、読めるのは位の高い人間に限られているようだが。物語を読みたいがために奮闘する下人達に、海外SFを原文で読みたいがために英語を勉強した過去があるブログ主は妙な共感を覚えたりする。

こうして人民の識字率が向上され、文明レベルが上がっていくのだろうか……としみじみと感慨にふけりつつ、「いや、ちょっと待てよ。文明レベルが上がってから娯楽が充実するのでは?」と無駄に思考を脱線させながら本作を読み進めていく。

歴史で描かれる権力者達は、人々に知恵を付けさせることを拒むことがある。奴隷が奴隷たる所以は、自身が奴隷であることに疑問を抱かないからだ、と言ったのは誰だっただろう。ブラック企業で働く社員達全員が、法律を学び理論武装した場合どのような社会になるのだろう……と考えてしまうのは悪い癖なのかもしれない。

結局のところ何が言いたいのかといえば、どうも毒物に交わるミステリ要素に加え、政治的・差別的な要素を多分に含み始めたということを伝えたいのだ。何を隠そう、上記の物語の波の広がりは、とある人物による政治的戦略により引き起こされたものなのだ。

「これまでも政治的な話はあっただろ!」とお思いの方もいるかもしれない。しかし、これまでの物語は政治的な背景をあまり理解せずとも読めたようにブログ主は感じる。第一巻は基本的に短いエピソードを連ねた内容であり、政治的色はかなり薄い。第二巻で登場する羅漢のエピソードも、メインとして据えられていたのは『羅漢が他人の顔を認識できない(失顔症という)』という真実を理解したときに解き明かされていく謎だったはずだ。

残念なことに第三巻からは、それぞれの微妙な政治的立ち位置というものを理解しなければ、真に物語を理解できたとは言えないだろう。それは細々とした描写にも現れてくる。

例えば。

医官の冴えない男を覚えているだろうか。いつも猫猫にあしらわれている人の良いおっさんだと説明すれば思い出せるだろうか。では彼は宮においてどれほどの地位か?

例えば。

猫猫は壬氏に仕えている。第一巻の最後を思い出していただけると分かりやすいだろう。しかし第三巻では玉葉妃の元で仕えている。壬氏と玉葉妃の関係性を覚えている方はいらっしゃるだろうか。

……というか壬氏って何してる人? てか誰やねん。

……ゴホン。

壬氏とは宦官である。宦官とは後宮に仕える去勢された男性のことを指す。

……去勢……うっ……男性の一人として、壬氏には同情の念を送っておこう。壬氏はそんな宦官の中でも特に権力を持った人間であろうことは、これまでの話を読んで理解して貰えるはずだ。

現代社会で言う所のエリート街道まっしぐら、猫猫とは正反対に進んでいく。幼い頃から英才教育を受けてきただろうことは想像に難くない。

第三巻ではそんな壬氏の過去や秘密に少しばかり迫っていく内容となっている。

 

過去や秘密に迫っていくとしても、ストレートに向かって行く訳ではない。メインとしては妊娠した玉葉妃を中心にして、『人の醜さ』を存分に感じられるような事件の数々を解き明かしていく。

ここで第一巻の最初、おしろいが毒物だった事件を思い出して欲しい。もしも猫猫がいなければ、今頃玉葉妃も綺麗にお化粧が施された状態で弱りながら死んでいくところだっただろう。

つまり敵は馬鹿正直に毒を飯に盛るような阿呆ではない。もっと自然な感じで、毒だとはバレない形で毒を仕込んでくる。それらを防ぐために猫猫が派遣される訳だが、まるでそれをあざ笑うかのように死人が出てくる。

例えば。

顔面が誰かも分からなくなるぐらいに腫れ上がり死んでしまった女性の死体がでてくる。疑いようもないほどに毒物が関連しているが、一部界隈は呪いだと騒ぐ。

もしもその毒物が玉葉妃に使われていたと考えると末恐ろしい。というか、女性の顔をそのように潰してしまうような殺人を行えるその精神が、一番恐いような気がしてならない。

人が人を殺すというのは、そうとうな理由がないとできないはずだ。理由もなく人を殺せる輩は少数派か、時代背景のせいだろう。人が人を殺してはならないという心理的ストッパーがどこかに存在するはずなのである。

それが子供を流産させるとなるとどうだろう。

倫理的には良くないことだというのは当たり前の前提条件だが、時代背景というものを考えてほしい。流産自体は珍しいことではないのだ。これまでおしろいのせいで流産していたことを呪いだとか騒ぐ程度の医療技術である。

はたして犯人に人を殺すことに対するストッパーが生まれてくれるのだろうか。そこには『人の醜さ』が詰まっているような気がしてならない。裏の裏、二転三転するミステリーの醍醐味を楽しみつつ、壬氏と猫猫の進展にも心を躍らせて欲しい。

読み応えのある作品だった。

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