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裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

裏側にようこそ

情報

作者:宮澤伊織

イラスト:shirakaba

試し読み:裏世界ピクニック 6 Tは寺生まれのT

ざっくりあらすじ

ネット上で怪異として語られるような存在が出現する裏世界。そこに入って探検する仁科鳥子と紙越空魚、二人の物語。

「Tは寺生まれのT」

感想などなど

紙越空魚はこれまで色々な経験をしてきた。最初はちょっと凄惨な過去を持つ女子大生だったが、裏世界を探検中にくねくねに殺され欠けていたところを、金髪美女の仁科鳥子に助けられて、一緒に冒険する共犯者となった。その後も様々な怪異と対峙し生き残り、小桜さんやら茜理さんなどの友人も出来た。

良い意味でも悪い意味でも、忘れることのできない経験の数々である。実際にネット上に転がっている恐い話が元になっているということもあり、ネットに入り浸る者達にとっても馴染みやすく、読者の記憶にも残りやすいような気がする。

かくいう自分は残念ながら、ネットに転がる怪談話についてあまり詳しいとは言い難い。今回の話の元ネタである「寺生まれのTさん」はご存じなかった。

「寺生まれのTさん」というのは怪異が絡む恐い話に颯爽と現れ、「破ぁ!!」といって助けてくれる超強い人である。なんかヤベー怪異が現れて「なんか恐い話だなぁ」と思っていたら、寺生まれのTさんがぶっ飛ばしてくれるヒーローである。はっきり言って恐くない。

だが、そんな彼が敵として立ち塞がると、一気に理解しがたい恐怖に襲われることとなる。

 

物語の冒頭はどこか違和感のある空魚の一人称視点から始まり、金髪美女の出現に困惑する空魚、馴れ馴れしい茜理に冷たい空魚という今となっては懐かしい姿が確認できる。さらに右目に眼帯をしていて、どうやら色が戻ってしまったようなのだから、ますます初期空魚と一緒の状態だ。

さらに、大学の講義では恐い話が好きであるはずの彼女が、そういった話題に興味のないというような態度を取るという奇妙ぶり。一周回って気持ち悪い。何が起きたのか、周囲の人も困惑している様子である。

特にショックなのは冷たい態度を取られた茜理や仁科であろう。彼女達はDS研究所に相談、裏世界の影響を疑い、彼女を拉致して無理矢理検査するという強攻策に打って出た。そんな扱いを受けて、裏世界に関わる全ての記憶を失っていたことが判明する空魚である。当然ながらDS研のことなども知らず、訳が分からぬまま連れてこられて検査されていく。

そんな彼女の記憶を取り戻したのは、怒っているような絶望しているような仁科の手であった。やはり彼女は裏世界の何かしらに巻き込まれた結果、裏世界に関わる記憶の全てを消されたようだ。

その犯人が同じ大学に通っている寺生まれのTさんだと分かり、調査に乗り出していく……これが超大まかな第六巻の流れになる。

 

Tさんはネット上で語られている話を見る限り、怪異に巻き込まれた人を助けるような存在である。「破ぁ!!」という気合いの入った一言で蹂躙されていく怪異達に同情すら感じてしまう話の数々が見つかることであろう。

では彼が空魚の記憶を消し去った理由も、何となく分かるような気がする。裏世界に巻き込まれて散々恐い思いをしてきた彼女、さらに右目が凄いことになってしまっているのを ”治してくれた” と考えられなくもない。

だが、鳥子の手を使えば記憶の全てが元に戻ることを考えるに、Tさんも恐らく裏世界側の存在なのだろう。そう考えて、茜理の協力も得てTさんを尾行。空魚に危害を加えたと思っている彼女は、やけにやる気満々でTさんの尾行に乗り出した。

するとどうだろう。いきついた先は裏世界のようであって、さらに茜理の記憶までも奪われてしまう。まぁ、こちらには便利な鳥子さんがいるので治せるのだが、もしも鳥子の力が奪われたら……? もしもDS研の他の面々が狙われたら……? 色々と最悪な想像が脳裏をよぎる。

その最悪な想像は当たらずも遠からずな形で実現される。

なんとTさんがDS研の本拠地を襲撃したのだ。どこからともなく、痕跡の一つも残さずに現れ、事務局長にして殺しになれてそうな汀さんもなすすべなかった。

その場に鳥子がいなかったことだけが救いであろう。

Tさんは悪か? いや、どうだろう。そもそも裏世界という存在が、謎ばかりなのだ。敵と味方という単純な線引きはできない。Tさんを追って入った裏世界は、さらに裏世界の謎を深めるようなギミックがあって、まだまだ知るべきことの多さを思い知らされる。

これまでとは違い長編となった裏世界ピクニック。ホラーやファンタジー、SFの要素など盛りだくさんな話であった。

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