※ネタバレをしないように書いています。
蘇る。2028年の世界が。
情報
作者:瘤久保慎司
イラスト:赤岸K
世界観イラスト:mocha
試し読み:錆喰いビスコ 3 都市生命体「東京」
ざっくりあらすじ
《ケルシンハ》との戦いを終え、自分の故郷へと戻ったビスコ一行は、《アポロ》と名乗る赤髪の男に攻撃を受ける。彼の攻撃により、村にはビルが建ち、死体は小さなジオラマのようになっていた。
感想などなど
「このライトノベルがすごい2019」第一位おめでとうございます。個人的にも納得の順位ですし、アニメ化が楽しみな作品の一つでもあります。
さて、前回は《ケルシンハ》を倒し、ミロは真言が使えるようになり、彼も不死身になりました。……あれ、おかしい。不死身にならないために旅をしてたのでは?
目的が変わっているように思いますが、くそったれの《ケルシンハ》をぶっ倒し、多くの人を救いました。ビスコとミルの一行はまるで神のような扱いを受けているようです。神を倒しちゃったのですから、当然の扱いといえば当然ですが。
そして、物語は始まった瞬間にクライマックスです。村にビルが建ち並び、死体から小さなビルが建ってジオラマが完成。すげぇよ……勢いと熱量が。この文章だけを見たら、荒唐無稽な説明に設定と思われるかもしれないが、そんな内容を受け入れさせるだけの文章力と勢いがこの作品にはある。
さて、一区切りついた第三巻の感想を書いていきましょう。
今回の敵は《アポロ》という青い《アポロ粒子》(いわゆるキノコ胞子のようなもの)と呼ばれるものを使って、攻撃から防御の全てを行います。
ミロとビスコの共同作業による最大出力の真言弓を片手でいなし(腕が軽く痺れた程度のダメージ)、青い粒子が触れた相手の身体にはビルが建つ。錆を操る《ケルシンハ》とは違い、全く違う《都市化》と呼ばれる攻撃を駆使してくる戦いは、読んでいて見応えのあるものです。
そんな強敵といえど、敵を倒して順当なパワーアップを果たして来たビスコ達は、からくも勝利。あれ、もしやこれで物語は終了……という訳もなく、相手は「次は勝つ」という捨て台詞を残して逃げていくのでした。
こうして再びパワーアップして戻ってくるラスボス……いいですねぇ。今度は油断したという言い訳もできませんし、全身全霊を込めた戦いが楽しめるのです。
本作の敵《アポロ》も非常に魅力的です(それにしても、また菓子の名前ですね)。『マナー』を守ることを最優先とし、強い敵に対しては素直に負けを認め、感情的に突っかかることなく、撤退という最善手を選択する様は敵ながらあっぱれです。
そんな彼の目的は『都市を蘇らせること』。
ビスコの住む世界では、過去に東京でテツジンという兵器が爆発したことにより、錆が蔓延しています。その爆発が起きた年が2028年であり、それより以前は普通にビルが建ち並ぶ都市が存在していたようです。
つまり、アポロは爆発する前に日本を戻したいというようです。一見すると悪くない話と思えなくもないですが、この彼の思想は同時に、ビスコ達現代の人々は全滅させるということも意味してしまうのでした。
事実、目的のためにロボット達が、パウーが知事として就任した忌浜地区を襲撃し、何人ものキノコ守の先鋭が殺されていき、結果として都市化が侵攻。東京を陣取ったアポロ達を攻める余裕なんて、彼らにはありません。
しかも、アポロを覆う《アポロ粒子》を削り、本体にダメージを与えられるのは《錆喰い》という最強の胞子を身に宿すビスコのみ。
さて、無限にも思われる敵の数と攻撃をかいくぐり、東京に辿り付くために、仲間達はビスコ達に協力してくれるのでした。
仲間達と共に東京の奥深くへと侵攻していく様は、さながらジャンプの王道のように熱く、キノコが「ボグンッ!!」と咲き、ビルが「グワンッ!!」と建つ! そんなバトルは視覚的にも楽しめるものとなっている。
勢いと熱量の高さが売りの物語は、完成度をさらに増していた。楽しい作品でした。