工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中Ⅴ 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻

※ネタバレをしないように書いています。

無自覚世直しファンタジー

情報

作者:秤猿鬼

イラスト:KeG

試し読み:骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中 V

ざっくりあらすじ

骸骨騎士・アーク、精霊獣・ポンタ、ダークエルフの騎士・アリアン、獣耳忍者・チヨメという個性豊かなパーティに、チヨメと同じく六忍に名を連ねるゴエモンを仲間に加え、向かうは海を渡った先にあるファブナッハ大王国には、求めていたトマトだけでなく、唐辛子まであるということを知り、唐辛子を育てているという虎人族の住処に足を運ぶが――。

感想などなど

これまでのアークは、神聖レブラント帝国やらローデン王国やらで無自覚に世直しをしてきた。悪い奴がボコボコにされる勧善懲悪が、さっくりとしたテンポで描かれていく。コミカル色は強いが、実際に悪役共がやっていることは結構えげつない。

エルフを捕まえて奴隷として売買しているというのが、まだマシと思えてしまうほどの人道を無視した展開が待っている。

といっても、本シリーズにおいて骸骨騎士の無自覚さは貫かれている。この第五巻の物語は、トマトと唐辛子を求めて人虎族の住む地域まで足を運んだら、なんかヤベー奴がいたからボコボコにした話と要約できる。

そのヤベー奴が結局なんだったのか?

そのヤベー奴らがどうして暴れていたのか?

それらをアークは疑問に思いつつも、調べるための行動に移すことはしない。少なくともこの第五巻において、ではあるが。アークとしては世界を守るだとか、戦争を止めるだとかいった目的はなく、トマトと唐辛子の方がまだ比重が高いのだ。

まぁ、異世界に行ったら食事環境の改善はわりかし急務な気がするし……とアークを擁護しておこう。むしろ異世界に行って、「よし、世界を救ってやろう」と意気込む方が、ある種の狂喜を感じるのは自分だけだろうか。

 

この第五巻から舞台が、海を渡った先の大陸にあるファブナッハ大王国に移る。

ここはこれまでの国とは違い、獣人が作った国となっている。人の住む街がないこともないし、そこには獣人の奴隷もいるが――人がいる場所に奴隷ありと考えるべきかもしれない。

海の移動にはエルフ族が所有する魔道船を使う。これには人が持っていない技術が使われており、帆船のような外観でありながら、風の少ない沖に出るまでは魔力を使って推進力を生み出して移動する。

この船が超強い。そして船員達は航海に慣れた強者ばかりで、クラーケンが現れた時などはお祭り騒ぎとなる。大変な戦闘にはなるのだが、その結果として採れるクラーケンの触腕を美味しくいただくのは海の男という感じがして好きだ。

アリアン達はドン引きといった感じであるが、アークをはじめとする男衆は、それを美味そうに喰らう。クラーケンといっても結局イカであるし、炙れば酒に合うのだろう。今日の夕飯は決まったかもしれない。

 

今回、アーク視点だとイカやトマト、唐辛子といった食材を入手し、美味い料理を作ることができて大満足。唐辛子を作っている虎人族を襲っていた巨人をボコした。しかしその裏では、チヨメの過去の因縁に決着をつけ、教会のヤバそうな動きが活発化し始めた。

チヨメは刃心一族を名乗る隠密舞台の末裔であり、その22代目族長・ハンゾウに仕える六忍の一人だ。その名前の雰囲気から分かる通り、忍者達の中でも強者達六人しかなることのできない特別な者達である。

そんなチヨメが六忍に至るまでの経緯や過去、大好きだった師匠のエピソードなどが時折挟まれていく。彼女が抱えていた過去の因縁と、まさかの海を渡った大陸で退治することになろうとは思いも寄らなかっただろう。

その対峙のきっかけを生み出した教会の動きも、作中で時折挟まれて描かれる。教会が保持しているという謎の力、それを使って何かをしようとしているという不穏な空気が漂っている。

この不穏さがこれからどうなっていくのか?

それにアークさんがどう関わっていくのか?

先の展開が気になる幕引きであった。

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻