※ネタバレをしないように書いています。
絶望を断つ刃となれ
情報
作者:吾峠呼世晴
試し読み:鬼滅の刃 20
ざっくりあらすじ
岩柱・悲鳴嶼と風柱・不死川は、二人ともが痣を発現させ、上弦の壱・黒死牟との死闘を繰り広げている。しかし、それでも上弦の首には届かない……。
感想などなど
第十九巻から始まった上弦の壱・黒死牟との戦い。霞柱・時透無一郎があっさりと敗北し、風柱・不死川の腹を切り裂いて、鬼殺隊の最大戦力である柱二人に痛手を負わせたその強さ……上弦の壱とされているだけはある。
柱最強とされている岩柱・悲鳴嶼も戦況に加わったが、それでも鬼が有利というパワーバランスは揺るがなかった。月の呼吸による不規則な広範囲、高威力な技に翻弄され、傷を付けても瞬時に回復してしまう回復力の高さに絶望する。
そんな暗闇の中に、一つずつ光が差し込んでくる。
例えば。
刀を突き立てられ、柱に固定されていた時透無一郎が、何とか刀を体から抜いて、闘志を燃やしていた。死ぬならば役に立ってから死ぬという、刀鍛冶の里で出会った当初には考えられないような意思の強さを感じる。
体を両断された不死川の弟も、上弦の壱の髪を喰らってパワーアップを図った。離れていた身体もくっつく程の回復力を得て、さらには血鬼術も使えるようになっていた。しかし、弱いからこそ鬼を喰らうことで力を得るしかなかった彼にとって、戦闘を目で追うのがやっとの彼にとって、この戦いはレベルが高すぎた。それでも兄のためにも、戦いに加わるために隙を窺う。
悲鳴嶼と不死川の両者に、痣が発現した。それにより技の速度と威力が上昇し、大きなパワーアップに成功する。しかし、黒死牟はそれでも首を取るには至らない。その上、痣は命の前借りに過ぎず、もう25歳までしか生きられなくないという事実が突きつけられる。悲鳴嶼なんて、現在27歳。今日、いますぐにだって死んでしまってもおかしくないのだ。
その場にいた柱達全員が、透明な世界の領域にまで達した。相手の筋肉や血流の動きを知覚することで、相手の攻撃の全てを予測し、少しずつ、少しずつ、上弦の壱を追い詰めていく。
だが、それでもやはり届かない。流石は上弦の壱、これまでの敵とは比較にならない。純粋な力で圧倒してくる。
第二十巻の前半では上弦の壱との戦闘が、後半では上弦の壱の過去が語られていく。戦闘については上記に書いた通り、全員が足掻いて、少しずつ光が差して、「勝てるかもしれない」という希望が見出されるまでの過程が丁寧に描かれた。
それを迎え撃つ黒死牟の心の内では、一人の男が回想されていた。
その男の名は継国縁壱。
断言できる。この男は、鬼と人間との戦いの歴史において最強の人間だ、と。
なにせ呼吸の剣士の始祖である。彼の呼吸は ”日の呼吸” 。全ての呼吸――水の呼吸や炎の呼吸など――は全て、この日の呼吸の派生に過ぎないようだ。その上、彼には生まれながらにして痣があり、透明な世界も見えていたというのだから、その格の高さが窺い知れる。
そんな最強の剣士・縁壱は、黒死牟の弟というのだから驚きだ。弟は最強の剣士、兄は上弦の壱という正反対の道を進んでしまった。そこには嫉妬や劣等感といった感情が入り乱れる胸が張り裂けるような物語があった。
鬼に堕ちてしまった彼が、そうまでして手に入れたかったモノは何なのか。その答えは是非とも読んで確認して欲しい。
無限城編に突入してから、透明な世界という新たな概念、次々と痣を浮き上がらせる柱達に加え、鬼に治癒できない傷を負わせる赫刀という技が、この第二十巻で新たに登場する(禰津子の炎で赤くした刀は、炭治郎が使っているが)。
強敵との戦いは、どんな修行よりも強くなる効果があるというが、それは本当なのだろう。皆が疲れに負傷を積み重ね、息も絶え絶えな実情だが、それでもまだ刀を握ることができる。まだ体力を残している柱もいる。
ここから無惨を討つことはできるのか?
いよいよ、本丸との戦闘が始まりそうな緊張感がたまらない。
感情がぐちゃぐちゃになってしまうような第二十巻であった。