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魔法使い黎明期6 深潭の魔術師と杖の魔女 感想

【前:第五巻】【第一巻】【次:第七巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

魔法使いになりたい

情報

作者:虎走かける

イラスト:いわさきたかし

試し読み:魔法使い黎明期 6 深潭の魔術師と杖の魔女

ざっくりあらすじ

新世界に使節団としてやって来たゼービル達は、いつの間にか新世界の支配者ダナ・リルとの戦争状態に突入してしまう。各地で家畜として飼われていた人々を、ゼロが作った氷の街を解放区とし集めて守ることにするが――。

感想などなど

新世界では立派な角を持った獣人――通称エクシノフが支配権を握り、角を持たないただの人々――通称ヌラベヌ達を、家畜として育て、自分たちが生きるための魔力を補充するためであったり、魔術の材料にするために殺していた。これがエクシノフの言葉で言うことろのヌラベヌの養殖、そして収穫 / 魔引きだ。

そして完全な獣人はペットとして好まれ、エクシノフが散歩したり餌を与えたりと可愛がられる。クドーを初めて見たウツワが、「欲しい!」と言ったのはそういった背景があったからということは、第五巻を読んだ方ならば知っていることだろう。

技術としては、禁足地では魔法が発達し、新世界では魔導と呼ばれる技術が発達していた。それぞれ魔法は詠唱によって力を発動するのに対し、魔導は魔方陣などによって作られた道具に魔力を流すことで利用する。魔導の方が、魔法よりも一般化された技術と言えるだろう。

新世界の社会というものを簡単に説明すると、こんな感じとなっている。

そんな新世界から、海を越えて禁足地やって来たハル・ベルは、残された家族を守るためにゼービル達を頼った。それに応える形で、門番をぶっ殺し喧嘩をふっかけたことで戦争状態に突入。最初は交易のために、新世界の社会というものを受け入れようとしていた彼らも我慢の限界だったのかもしれない。

もう後戻りはできない。

かつては教会との戦争を血を流させずに終わらせようとした彼らは、ここでも可能な限り血を流させない戦いというものを見せてくれる。

 

ゼービル達の作戦というものはシンプルだ。

まず家畜として養殖されているヌベラヌ達の解放を推し進めていく。海沿いにゼロが氷で街を作らせ、そこに逃げ出してきたヌベラヌ達を集めて住まわせるのだ。ゼロに魔法で作らせたのは、禁足地の魔法使い達の力を見せつけ、安心感を与えるという意味がある。

そして攻撃してきた門番達――空を覆う巨大な魚達は、ついでにゼロが氷漬けにして封印。魔法の技術が失われ、過去の遺物に魔力を流し込むことしかできない技術力では、ゼロに勝つことなどおそらく不可能であろう。

ゼロ達には勝てないと判断し、禁足地に向けて門番を直接差し向けるも、それらもあっさりと返り討ちされてしまう。単純に魔力が潤沢にあるというだけではなく、戦いという面において培われている経験値や技術が違いすぎた。

戦争にならないくらい禁足地と新世界の間にある力の差は歴然だった。

その理由はこの世界の歴史が大きく関係してくる。どうやら禁足地は、もともと『魔術原理主義者』と呼ばれる魔術師が隔離された区域だったようなのだ。『魔術原理主義』というのは、より一般的に魔術を使えるようにした魔導を嫌い、魔術を重視する主張のことを指す。

そんな魔術を大切にする者達が、次々と新世界を去って行くことで、新世界の魔術の発展は完全に止まった。残された魔導を駆使して生活し、管理者が死んでしまった魔導は二度と使えなくなるという事態も発生する。

その上、土地の魔力も尽きかけ。ゼービル達が来ずとも、この世界は遅かれ早かれ滅びていたのではとすら思う。この戦争の勝敗が、新世界の今後を大きく左右することは疑いようがなかった。

 

戦争というように最初の方に書いているし、少なくない血が流れることとなる。しかし、ゼービル達が行っていることは正しいことなのではと、結果だけみれば思う。それでもやはり、少なくない流れていった血を思うと、素直に喜べない自分がいる。

作中、ゼービルが弱い者を虐めているような感覚に襲われ、思い悩むシーンがある。

ゼービルがボコボコにした相手は、解放区に逃れようとしたヌラベヌ達を皆殺しにして魔力に変換。自分たちの生活を安定させるために奔走し、それはそれは酷いことをした。同情の余地はない。

読み返してみると、ゼービル達から攻撃を仕掛けたことはない。

戦争のきっかけとなる門番殺害も、攻撃を仕掛けてきたのは新世界側だ。戦争をして欲しいと願い出たのは、他でもない新世界の人間だ。戦争が勃発しヌベラヌを解放区で囲い、それら家畜を奪還しに来た門番を返り討ちにしただけ。解放区に向かってくるヌベラヌを殺した輩達の元にやって来て、彼らが保管していた魔力を根こそぎ奪った……だけ。

そんな戦争の結末は、是非とも読んで確認して欲しい。読み終えた時、「あぁ、これで簡潔かぁ」という満足感があったが、まだまだ続くようなので安心して欲しい。

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