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魔法使い黎明期5 新世界の使者 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】
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※ネタバレをしないように書いています。

魔法使いになりたい

情報

作者:虎走かける

イラスト:いわさきたかし

試し読み:魔法使い黎明期 5 新世界の使者

ざっくりあらすじ

三人がそれぞれの道を進んでから三年が経ち、セービルは魔法薬の研究を、ホルトは騎士団員としての活躍を、クドーは各地を医師団長として各地を巡っていた。そんなある日、違法な魔法薬を作っていた魔術師が、北の海の向こうにあるとされる新世界から来ていたと分かり――。

感想などなど

かつてゼロは、人民から差別され虐げられてきた魔女と、魔法を使えない人々を繋げる橋渡しとなることを願い、これまで一般的だった魔術を使いやすい形にして書籍にまとめた。

それが『ゼロの書』と呼ばれる魔法の書であり、ゼロの思惑とは違った使い方をされたことで世界を滅ぼすことができる書物として扱われてきた。結果として魔法の技術は世間で広まっていき、それによって激化した教会と魔女達の戦争が泥沼化。今、魔法使い黎明期で描かれる物語へと繋がっていく。

セービルが開発し、禁書館で研究を続けていた魔法薬は画期的だ。なにせ魔法を使う才能がない者まで、これさえ使えば魔法を使うことができるようになるのだから。この開発・研究の成果が認められ、深潭の魔術師という二つ名が与えられたセービル。

しかし、これまで魔術を使えなかった者に向けて魔法が作られたというかつて流れと同じことが、セービルの作り出した魔法薬でも起こりうる。魔法を使えなかったものが魔法を使えるという手軽さは、引き金を引くだけで農相を飛び散らせる拳銃の手軽さに似ている。

そのような危険なことはできないように工夫されているとしても、その工夫を打ち砕くだけの技術を開発する者は必ず現れる。技術はそういった悪意から発展を遂げていくことを、歴史は物語っている。

例えば。

手軽に火をおこすことができる〈掌火〉という魔法を使うことができる魔法薬は、ライター一つで大火災を起こせるように、犯罪に使う方法はいくらでも考えつく。〈癒手〉という治癒の魔法薬は、医師協会から猛烈な批判があった。

前作『ゼロから始める魔法の書』でも似たようなエピソードがあった。医師達が奇跡であらゆる病を治癒してしまう聖女の出現によって、街から出て行くしかなくなった。しかし聖女は大金を出す者しか治さず、貧乏な平民は医師がいなくなった街で病に罹ったら治すことができずに死ぬしかない……そういう悪循環が起こりうる訳だ。

しかし、その歴史に学んだセービル達はそれなりに対策を打っていた。歴史とは役に立つのだなぁ……と感心しつつ、その対策で大いに活躍していたのが、医師として全国を飛び回るクドーや、犯罪を取り締まる騎士団長として獅子奮迅の活躍をするホルトだったりする。

そんな中、違法な魔法薬が出回った。その魔法薬を解析したところ、セービルやゼロですら知らない新種の悪魔の魔法であることが分かった(そもそも魔法は悪魔の力を利用するもの、それぞれの魔法には対応する悪魔が存在する)。

この違法な魔法薬を作った者は、そうとうな手練れだろう。捕まえなければいけない。

あぁ、これはこの捕獲に大半のページ数が割かれるのだろうな……と思っていたらすぐにホルトの手によって捕まる。これで一件落着、万事解決だ……とはいかない。問題はその犯人の出生である。

 

犯人の名はハル・ベル。

外見は普通のウサギ耳の獣人である。しかしその言動は、「話が通じない系の犯罪者」と評されるように奇怪であった。

まず今いるこの地を、彼女は『禁足地』と呼んだ。聞きなじみのない単語である。

彼女はホルトの手によって捕縛された訳だが、彼女はホルトのことを『エクシノフ』と呼んだ。これもまた知らない単語である。

彼女はどこから来たかを尋ねられ、「北の海を越えてきた」と言った。これまた、ゼービル達にとっては首をかしげざるを得ない話である。

そもそも北の海より先は、絶対に到達することのできないとされてきた。かつてロー・クリスタルは、北の海を越えるために単身船に乗り込んで進んだ。しかし突如として船は大破し、海に沈んだ。彼女と杖だけが、何とかして陸地に戻ってきた。これまでも北の海を渡り、その先にある地に足を踏み入れた人間はいない。

しかし、彼女は北の海を越えてきたと言った。存在しない、渡ることは不可能とされてきた北の海を、だ。しかし『禁足地』や『エクシノフ』といった聞き慣れない単語や、彼女の語る常識の類いが、北の大地の存在を裏付けていく。

この北の大地の名を、ゼービル達は『新世界』と呼んだ。

 

この巻は新世界の死者というタイトルになっているが、正確には新世界の死者〈前編〉とでも呼ぶべき内容となっている。ハル・ベルの発言を裏付けるために、新世界へ向けて北の海を渡るために奮闘する前半、新世界に辿り着いてからは、新世界における常識を理解するための後半という構成になっている。

前半は大して面白みはない。ただ北の海に漂うおどろおどろしい雰囲気や、海を渡らせまいとするクリーチャーが、ホラー映画に似た緊張感を生み出している。

それを乗り越えた後半が、期待を上回る。言葉は通じるのに話は通じない恐怖を感じたのは、ブログ主だけではないだろう。環境によって形成される常識の差が、徐々に分かってくる感覚が味わえる作品はそうそうない。

できれば読んで体感して欲しいが、一つ例を出しておこう(下記に示す例に関しては、前半部でも説明がされている)。

新世界と『禁足地』と呼ばれるゼービル達の住む大陸は、獣人に対する扱いが大きく異なる。『禁足地』では、人も獣人も扱いは大して変わらない。ホルトが騎士団長として活躍できるし、傭兵もかなり活躍している。

しかし、新世界では一部の獣人はペットとして扱われる。クドーなんてのは、高貴な身分の方に献上するにはもってこいのペットとして最適な獣人であるらしい。新世界で会った子供が、「アレ欲しい!」と指さす程度には。

できることなら、このままネタバレを調べようとせずに。そして第六巻も一緒に購入して読むことをおすすめしたい。

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