※ネタバレをしないように書いています。
殺したぐらいで、俺が死ぬとでも思ったか
情報
作者:秋
イラスト:しずまよしのり
試し読み:魔王学院の不適合者 8 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜
ざっくりあらすじ
対立していた三国をまとめあげ、地底の国を救ったアノス。しかし、彼の父を名乗る男の存在や、選定審判といった謎は残っている。その調査のために、再び地下に潜り、彼の記憶が封印されているという《創星エリアル》の存在を知る。
感想などなど
アノス・ファンユニオンの歌により、国が一致団結し、未来を知る予言の神ナフタが先の見えない未来に希望を見出すという展開は、なかなかに感動的だったと思います。落ちてくる天蓋を片手で支えるアノス様も、流石と言うほかない。
結局、地底の国が救われるには、皆の力を合わせるしかなかった。それにより広がる未来は、何よりも明るい。
さて、何一つ心残り無くハッピーエンド……と言いたいところですが、解決していない諸問題がチラホラと見受けられる。選定審判の意味とは、アノスの父を名乗る男の正体とは、アノスの書き換えられた過去とは。
それらの疑問が一気に解消されていく第八巻。これを持って地底の国にまつわる一騒動は幕を閉じ、スタンディングオベーション巻き起こるハッピーエンドとなることを、ここに宣言しておこう。
「小説家になろう」での章立てにおいては、第八章《魔王の父》編の内容が第八巻の内容に当たる。そのまま章題が表す通り、この第八巻ではアノスの父を名乗るセリスの正体と、それに関わるアノスの過去に迫っていく内容となっている。
それらをただアノスが調べるだけで済めば良いのだが、そんな簡単に話が進むはずもない。気付けば国家間の大戦争の直前まで追い詰められるのだから、この世は悪意に満ちているということなのだろうか。
ここで情報を整理しておこう。
選定審判、これをぶっ壊したアノス。そもそも、この儀式の目的は何だったのだろうか。グラハムとかいう輩が何かしたくて起こしたという超漠然としたことしか分かっていない現状では何とも語りにくい。このブログはネタバレ禁止だし。
ここで視点を少し変えてみる。選定審判の目的は果たされたのだろうか?
破壊されちゃったし、目的の半ばで終わってしまったんじゃ……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。その答えは神のみぞ知るということだろう。
さて、セリスという自称アノスの父について話をしよう。
アノスも魔族の子。親がいたはずである。ここまでアノスが語った両親の情報は、戦争で殺されたということしか分かっていない。そもそも記憶に残っていないということだったのだから、仕方がない……そう思っていた。
だがアノスの父親である。そう簡単に死ぬような雑魚ではないだろう。
第八巻で語られていくが、アノスの父には簡単には語り尽くせぬ物語があった。そしてやはり、簡単に死ぬようなやわな強さではなく、ヴォルディゴードの名を持つだけの力を持っていたことも分かった。
アノスとセリス、二人の家族としての絆が築き上げた物語を、とくと見て欲しい。いつもは冷静な彼が、怒りの感情に振り回されそうになる珍しいシーンを見ることができるのは、この第八巻だけかもしれない。
この第八巻までで、おおよそアノスの謎については片付くのではないだろうか。それくらいに綺麗な決着を見せつけてくれる。アノスはこれまで周囲のわだかまりを解消し、ハッピーエンドを届けてくれた。
だが今度は、アノスが自身のわだかまりを解消して幸せになる番だ。
父親の思いを、願いを知り、彼はこれから先の未来をどのように歩んでくれるのだろう。2000年という長い長い時間を費やして、この世界は彼が見たかった世界になったのだろうか。
ここから先は、世界の深淵に迫っていく話が展開されていくこととなる。そのためにも必要なステップだったのだと、この第八巻を振り返って考えさせられる。
ここまで読んで良かった、そう思える話であった。