工大生のメモ帳

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魔王学院の不適合者 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

殺したぐらいで、俺が死ぬとでも思ったか

情報

作者:秋

イラスト:しずまよしのり

ざっくりあらすじ

二千年の時を経て、転生してきた暴虐の魔王。だが、魔王の候補を育てる学院の適正試験で《不適合》という結果が出てしまう。人や精霊、神々すらも滅ぼした魔王による学院生活が始まる。

感想などなど

チート能力を持った主人公が、活躍する作品はたくさんある。だが大抵の場合、ストーリーを動かす上で力が拮抗する相手は出てくるものだ。それにより白熱したバトルというものを演出し、ストーリーの盛り上がりは最高潮に達する。

本作はその例に当てはまらない例外である。なにせ作品の世界において、主人公である魔王、アノス・ヴォルディゴードは最強なのだ。

時は二千年前に遡る。

魔王アノスは人の国を滅ぼし、精霊の森を焼き払い、神々ですら殺してしまった。彼の前では理すらも成立しない。力を持って、対等に渡り合える存在はいなかったということだ。

だが彼は死んだ……いや、これは正確ではない。

暴虐の限りを尽くした魔王であったが、最期に彼が望んだことを予測できた輩はいないだろう。なんと命と引き換えに、人間界、魔界、精霊界、神界を分け隔てる壁を立て、千年は開かない扉をつけよう、というのだ。

つまり、平和のために死ぬ。

しかし、もう一度書くが、死というのは正確ではない。二千年後の魔王の子孫の誰かに転生しようということらしかった。まぁ、あらゆる種族を滅ぼすだけの力を持った彼にとって、その程度の魔法は造作もないのだろう。

そんな魔王の命と引き換えに作られた平和な世界が二千年続き、魔王がこの世に生を受ける時がやって来る。

 

二千年後の世界でも、魔王の名前による影響力というものは凄まじいものであった。なにせ転生してくるという魔王を見つけ出し、もしくは魔王の候補となる人物を育成するための学院が作られていたのだ。

当然、魔王として転生してきたアノスはその学院へと向かう。ちなみに生まれた瞬間に名を名乗り、両親の度肝を抜かせ、生後間もないにも関わらず魔法を操り、《成長》という魔法を使うことで生後一ヶ月で十六才ほどの青年へと変貌を遂げた。

ちなみに《成長》という魔法は二千年もの間にどうやら失われてしまったようだ。

魔王では学院に入るための試験というものが執り行われていた。試験の内容は『死ぬか、ギブアップするまで闘う』というシンプルで分かりやすい内容で、五人と戦い勝ち越せばいいらしい。

まぁ、当然魔王なので負ける要素は皆無だ。

おそらくその世界基準では、かなり強い方に分類されるであろう面々との戦いではあったが、危なげすらなく勝利。「死んでもギブアップしないぞ!」と意気込む相手に対して、殺して殺して殺して殺して殺して、生き返らせてあげるだけの余裕があった。魔王様は不要な殺生はしないのである。

ちなみに死んだ人間を生き返らせる魔法というのは、この世界で当たり前に使われている訳ではなく、その場にいた人間が「何をしたんだ!」「死んだ人間が生き返ったぞ!」と慌てふためいていた。

 

そんなチートな魔王様であるが、暴虐の魔王として語られる印象とはかなり異なっている。

二千年後の世界では、魔王様は情け容赦なく人も精霊も神も殺しまくったことになっているが、どうやら彼自身が殺したことはほとんどないらしい。村や軍隊を焼き尽くすにしても、ギリギリしなない程度に力を押さえていたという衝撃の事実が、魔王様の口から直接語られる。

その話を裏付けるかのように、この平和な世界の日常に、魔王様は魔王様なりに溶け込もうとしていた。まぁ、魔王様なりのジョークは周囲を青ざめさせたり、些か時代にそぐわなかったりするが、二千年も経ってるんだし仕方がない。

 

ここで少し学院に話を戻したい。先ほども説明した通り、この学院は転生してくるという魔王を見つけることが一つの目的となっている。さて、念願の魔王が来たのだから、目的は達成された……ということにならない。

試験の一つ目は難なくクリアした。次の試験では魔力を吸収して測定するという水晶を使って、対象者の魔力を測定する。しかし、水晶の許容量を超えてしまったがため、魔王様の魔力はゼロという計測結果が出てしまった。

次の試験では魔王様の歴史に関する口頭試問である。魔王様は自分のことなので、当たり前だが正解を語る。しかし二千年という時を経て、魔王に関する歴史に誇張や変更が加えられ、結果として試問は最低点数を叩き出す。

ここでタイトルを回収し、アノスは魔王不適合者となってしまった。魔王なのに。

結果、彼はとても舐められる。その程度で怒り散らすほど魔王様の心は狭くないが、あまりにも周囲のレベルが低すぎて「もうちょっと頑張れよ」的な視線を周囲に向ける。そらそうだ。魔王を育成しているというのに、魔王よりも遙かに弱かったら話にならない。

しかし、これも世界が平和になったってことなんだなぁと、幸せを噛みしめる魔王様がブログ主的には好きだ。

そんな魔王にも友達ができる。ミーシャという可愛らしい女の子だ。かなり無口で、表情もあまり変わらないように見えるが、物語を読み進めていくと、心優しく表情も豊かであることが分かっていく。自らを魔王と名乗る一見するとヤバいアノスにも、動じず普通に接する辺り、将来大物になりそうだ。

そんなミーシャにはサーシャという姉がいる。魔眼という見ただけで周囲を破壊してしまう力を持っており(ちなみに魔王も魔眼を持っている。サーシャよりも遙かに強い)、魔法を扱う力もかなり長けている。しかし姉妹での仲というのは、あまり良くないようだ。

そんな姉妹といつしか仲良くなっていた魔王様。しかし姉妹を取り巻く運命というものが、魔王様を平穏な学院生活に牙を向いた。

そんな運命と魔王様の戦いがあまりに熱い。理すらも破壊する魔王の力と、運命の闘いの決着は、ぜひとも原作を読んで体感してほしい。気付けば主人公である魔王が好きになる、そんな作品であった。

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