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ケモノガリ4 感想

【前:第三巻】【第一巻】【次:第五巻
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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

殺意を覚えまして

情報

作者:東出裕一郎

イラスト:品川宏樹

ざっくりあらすじ

”クラブ” のリストに名を連ねていたローマ教皇次期最有力候補であるヴァレリオ・ロベルティを殺すため、ローマにやって来た楼樹一行。

しかし、ローマに入ると、そこは戦場のような有様で。

感想などなど

第三巻ではアストライアという金髪美少年との死闘を乗り越え、イヌガミという心強い仲間ができました。しかし、アストライアという最強少年に愛されるという結果となり、イヌガミの姉であるゲルトが ”クラブ” に連れて行かれるという状況。

得た物もあり、失った物もあった戦いでした。

今回の戦いの舞台はキリスト教の聖地であるバチカン……へ向かうまでのローマでの戦いとなります。

 

ローマといえば個人的には観光地としての外観を思い浮かべます。綺麗な町並みと、大勢の人々が悠々と歩く。そんな場所も ”クラブ” の手にかかれば血生臭い戦場となります。

町に入ってみれば人々の姿はなく、代わりに死体が山のように積み重なっています。犯人は勿論 ”クラブ” であり、イタリア軍までも総動員しての殺戮が行われていました。目的はただ『自分たちが楽しむため』であり、娯楽です。

ときおり画面上にその殺戮の様を楽しんでいる人達のシーンが挟まります。 ”クラブ” の調停員の一人であり、楼樹を自分の手で殺したくて殺したくて仕方がないアストライアが「頑張ってね」と声援を送ります。「頑張って」と言われても、てめぇらが勝手にゲームを始めて、巻き込ませてんだろうが! と愚痴りたくなりますが、そんな常識が通用する相手ではありません。例え嫌といっても勝手に人を殺すのは、彼ら ”クラブ” の得意技です。

……そして話を進めていくと、この戦場の主人公は楼樹であり、アストライアが彼のためにセッティングしたゲームであるようです。たった一人のため国を一つ動かし潰した彼の愛には、形はどうであれ惚れ惚れしていしまいます。

ここで理解しなければいけないのは、『楼樹がローマに来たからこそ、ローマの人々は殺された』ということ。「いや、殺したのは ”クラブ” だろ」と言われるかもしれませんし、実際その通りです。

しかし、桜樹は責任を感じました。これ以上の犠牲者を増やさないため、ケモノを根絶やしにするために ”ケモノガリ” となった彼は、大勢の人が死にゆく戦場で生き残りであるシスター・セシリアと出会います。

彼女は目が見えず、ただ人が死んでいき、血のにおいが充満する中で神に祈っていました。いずれ時間が経てば見つかり殺されてしまう彼女……楼樹は彼女を守りながら戦うことを誓いました。なにせ無関係の人を無尽蔵に殺していては、自身もケモノに成り下がってしまう。楼樹の人としての何かが壊れてしまう。それだけは避けたかったのでしょう。

もう十分壊れているという突っ込みは辞めましょう。彼自身、それは自覚しています。

とにかく、彼は盲目で、力もない非力な女性を連れて戦いに挑みます。例えアストライアと同等の力を有していると言えど戦いは苛烈を究めます。快楽提供者であるバイクに乗り巨大なランスを抱えた男だったり、熱を帯びた針を武器に戦う女だったり、敵も雑魚ばかりではありません。アウストライアに匹敵するのでは? と思われる敵が首を刈りにやって来るのです。

 

流石はアウストライアと言うべきでしょうか。楼樹がゲームから逃げないために、思い人である貴島あやなを誘拐しました。「誰?」という方は、第一巻から読み直すことをお勧めします。簡単に説明すると、楼樹と共に “クラブ” が開いた殺し合いゲームに参加させられ、生き残った三人の内の一人です。

この『貴島あすなをを取引の材料にする』作戦は実に効果的でした。楼樹が人としての理性を保てているのは彼女のおかげであり、戦う理由でもある彼女が、もし死んだとすれば……彼はきっと壊れてしまうでしょう。「君は彼女が関わると弱くなるね」とアウストライアは発言していますし、あすなも「私が死んだら、彼は壊れてしまう」と言っています。

誰から見ても明らかに、貴島あすなは楼樹自身の弱点でした。

 

さて、最後に今回のゲームについて説明しましょう。

ゲームの内容は『ローマの包囲網の中で、ヴァレリオ・ロベルティを見つけ出し殺すこと』。単純で分かりやすい、しかもヴァレリオ・ロベルティを殺すつもりでここまで来たのです。願ったり叶ったりの条件です。

しかし、このゲーム、どうやったら ”クラブ” 側の勝利なのでしょう? 桜樹が死ねば?

ゲームのセットを行ったアウストライアは、彼が快楽提供者に負けるとは思っていないようです。舞台裏の役目に徹する彼の発言から、それは読み取れます。

このゲームの本当の目的とは? そんなことを考えながら読み進めると、新たな発見があるかもしれません。

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