工大生のメモ帳

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ログ・ホライズン8 雲雀たちの羽ばたき 感想

【前:第七巻】【第一巻】【次:第十巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

ゲームみたいな異世界

情報

作者:橙乃ままれ

イラスト:ハラカズヒロ

試し読み:ログ・ホライズン 8 雲雀(ひばり)たちの羽ばたき

ざっくりあらすじ

マジックバッグを入手するクエストのため、トウヤら少年組はアキバを離れて、五十鈴を中心として各地で音楽を演奏するライブツアーをしながら回っていた。

感想などなど

皆さんはゲーム音楽はお好きだろうか。かくいう自分は大好きである。気に入ったゲーム音楽はよく買っている。歌詞がないので作業BGMにぴったりなのだ。この記事もゲーム音楽を聴きながら、書いてたり書いてなかったり。

〈エルダー・テイル〉にもきっと音楽は流れていたはずだ。戦闘BGM、街中でのBGM、フィールドでのBGM……というように、それぞれの場面・場所に適したBGMが用意されて流れていたことだろう。これまでのエピソードを見る限り、作り込まれたストーリー仕立てのクエストもあった。そのクエストごとにBGMが用意されていたりもしたかもしれない。特定の敵用に流れるBGMもきっとあったことだろう。

しかし、転移してきてしまった者達には関係ない。なにせその世界の人々と同じように生きているのだから。脳内に一日中音楽が鳴り響いていることなどない。戦闘において周囲の音を聞くことは大事かと思われるし、その点においても邪魔になると予測できる。

つまり、音楽を聞きたいと思えば、これまでの世界と同じように作って演奏するか、してもらうしかない。そんな当たり前のことを、文章という枠組みでしか世界を見ることができない読者は意識できない。

そんな音楽というものに焦点を当てたエピソードが紡がれていく。

例えば……というか彼女が主役と言っても過言ではないが。

職業『吟遊詩人』の五十鈴が、マジックバッグを入手するクエストの旅路で、ついでに音楽を演奏して回るライブツアーのようなものを提案した。もともとアキバの街にいる頃から、酒場のような場所でリュートを演奏する程に音楽を愛していた。だがそれと同時に、ミュージシャンである父から「才能がない」と言われていたことから、音楽はあくまで趣味であり、これでお金を貰うといったことには抵抗があったようだ。

「才能がない」これまで演奏してきた曲も、かつて聴いてきた音楽を真似して鳴らしているだけ。オリジナリティも欠片もない、「やはり自分には才能が合い」そのことをコンプレックスとして抱えていた。

そんな彼女の心のわだかまりを徐々に溶かしていく過程は、一人の成長物語として見物である。

 

さて、第八巻での主題はそれだけではない。裏では厄介な陰謀が蠢いていた。

その陰謀の一つが、擬似的に冒険者と同じように死なない状態にした大地人達に、冒険者を襲わせることで経験値をバカ稼ぎして、いずれは冒険者を倒したい……というものである。

……この無茶とも思えるが、現実的な作戦を立案した黒幕は、当然だが大地人である。大地人と冒険者がぶつかるのは避けられぬことであったが、冒険者が負けるという未来は考えにくいものであった。

だが、もしかしたらという数パーセントの可能性がチラつくだけでも、冒険者にとっては絶望であろう。そして大地人にとってそれは希望となるのかは、これからの冒険者の行動次第であろう。

冒険者がこれからも大地人達にとっての救いであり続ければ、これからも求められ続ければ、戦う必要だってないのだ。

そんな矢先、冒険者の信用を失墜させるような事件が起こる。それは子供達の可愛らしい失敗ではなく、いい歳した大人によるものなのだから救いがない。子供達の方が、より民に寄り添った選択ができている。

しかし、大人達の言い分を聞いた時、自分は強く大人達を攻めることができなかった。

自分はどうするだろう? とどうしても考えてしまう。何かを残して異世界に来てしまって――例えば妻や子供など――現実に戻りたいと考えるのは必然だ。それも可能な限り早く戻ろうとするのは、間違いだと断罪する権利などない。

これまで異世界で生きていくことを念頭に置いた行動をする者ばかりが目立った。そういった者達を正しいと描いていたように思う。だが、彼らのように戻ろうと奮起している者達もまた正しいのではないだろうか。

そんな相反する必要がないはずの二つの行動理念が、かちあってしまったのが悲劇だった。これから先もきっと起こるだろう。それをどう乗り越えていくのか。楽しみである。

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