※ネタバレをしないように書いています。
賢者の弟子=賢者
情報
作者:りゅうせんひろつぐ
イラスト:藤ちょこ
試し読み:賢者の弟子を名乗る賢者 11
ざっくりあらすじ
ソウルハウルと出会ったのも束の間、ダンジョン『古代地下都市』の七階層目のレイドボス『マキナガーディアン』との戦闘にミラも参加する。ゲーム時代とは違う動きに戸惑いつつ、互いに全力で挑む。
感想などなど
ついにソウルハウルと再会した第十巻。ここまで長い長い旅路であったと感慨にふける暇はない、彼の目の前にはレイドボス「マキナガーディアン」がいるのだ。レイドボスというだけあって、二人で挑むような相手ではない。体力もさることながら、その攻撃力も防御力も尋常ではないステータスをしているらしい。
しかし、ミラが来ることを装丁していないソウルハウルは、たった一人で勝つ気でいた。
そもそもこの男が方々を駆け巡っていたのは、彼がいたとされる拠点にあった氷漬けされている女性を ”助けるため” であると推測されていた。しかし彼の語るこれまでの行動の理由は下記の通り――。
ソウルハウルは死霊術士である。その名の通り、死体を使役することで戦うことができる。またガーディアンのようなモンスターを生成することも可能で、召喚術と似た方向性の術だといえる。
しかしながら死体を使役するという術の性質上、彼は墓場や戦場の死体を持ち帰り術をかけるという倫理的にアウトみたいなことをしている。死霊術士がそもそもある世界観ということもあり、そのことを咎めるような者もおらず、プレイヤーも「ゲームだから」ということで責められることはなかった。
しかし、ここはゲームが現実になった世界。なかには死者はしっかりと弔ってやらなければいけないという倫理的観点から、または宗教的観点からソウルハウルにそういったことを辞めるように、しつこく付きまとってくる生きている人間が現れたのだという。
「死者は火葬して弔うべきだ」「遺品などは親類縁者に届けるべきだ」と。
そしてソウルハウルがこれまで集めていた遺体を奪おうとした人間こそ、拠点で氷漬けにされている女性であった。つまり彼は、彼のコレクションを奪って何度も死霊術を辞めさせようとした人間を救おうとしているのだ……とミラは考えるが、ソウルハウルの答えは違う。
「あいつは、死ぬのが恐いと泣いていた。だから、そんなあいつに行ってやるんだよ。お前を救ったのは、お前が忌み嫌っていた死霊術だ、ざまあみろ、ってな」
その一言を言うために戦うと。
それは歪んだ恋ではなかろうか。
この第十一巻はそんな『ソウルハウルの話』と『マキナガーディアンとの戦闘』、そして『古代地下都市』の七階層よりさらに下にあるとされていた、『フェンリルに取り憑いていた謎の力が発生した原因を突き止める話』で構成されている。
『ソウルハウルの話』については先ほど語った通り、彼のアンデットに向けている愛情が描かれており、これまで回想でしか知ることの無かった彼のことについて深く知ることができた内容となっている。
これまで何度も言ってきたように、本シリーズの魅力は戦闘だと思っている。九賢者二人が共闘する戦闘が描かれる『マキナガーディアンとの戦闘』がつまらないはずがない。ゲーム世界とは違う行動に対しても冷静に立ち回り、確実にHPを削っていく。互いにたくさんの仲間を場に出して戦うスタイルなだけあって、戦場には多くのモンスターがそれぞれの役割に沿って動く様子が描かれている。
そして、この世界の核心に迫る内容となるのが、『フェンリルに取り憑いていた謎の力が発生した原因を突き止める話』である。何とダンジョンの最下層の更に地下に、日本語で書かれた書物が散乱し、セキュリティカードで守られた研究所のような施設があったのだ。
そこには日本人が何やら実験をしていた痕跡が見られ、しかも時期的には精霊王達が知るより前の時代からあったのではないかとされた。なんだこれは……そもそもゲームの世界だったのではないか? そこにどうして研究所のような場所がある?
謎が謎を呼ぶ急展開。そこでも戦闘が起こり、死霊術士が大喜びの発見もある訳だが、その話はネタバレになるので辞めておこう。シリーズを通して重要な巻であった。