工大生のメモ帳

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”文学少女”と月花を孕く水妖 感想

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます(一巻の感想はこちら→”文学少女”と死にたがりの道化 感想 - 工大生のメモ帳

残酷な恋路と幽霊の謎

情報

作者:野村美月

イラスト:竹岡美穂

ざっくりあらすじ

夏休み。遠子先輩からのSOSで、姫倉の別荘で”おやつ”を書くことになった心葉。

そんな別荘で、八十年前に起こった悲劇の影が伸びる。

感想などなど

前回(”文学少女”と慟哭の巡礼者)は心葉の過去にまつわる悲しい事件の物語でした。今まで過去に何かしらの事件に巻き込まれ、それによって小説を書くことができなくなったことは、ぼんやりではありますが、示唆されてきました。

そんな過去が美羽と再会することで明かされていき、これまで築き上げてきた絆が軋み始める中、一歩踏み出して「大好きだよ」と思いを告げ、過去との決別を果たしました。全てが解き明かされた終盤は鳥肌が立ちっぱなしで、これまでどこか頼りないと思えた心葉が、大きな成長を遂げた物語でした。

今回は時間が打って変わって夏休みまで遡ります。立ち位置としては番外編になるのでしょうか。しかし、この巻だけでとてもまとまって綺麗に終わっていました。早速、感想を綴っていきましょう。

 

舞台は町外れの森の奥にある姫倉の別荘。遠子先輩にSOSを受け、わざわざやって来た心葉。ちなみにSOSとして送られてきた電報の全文は、

『悪い人にさらわれました。一週間分の着替えと宿題を持って、今すぐ助けに来て下さい。』

住所も書いていないのにどう助けに行けというのだろうか。と思うのも束の間、姫倉の執事(?)が迎えに来る。あぁ、ある意味悪い人にさらわれたのも間違っていないのかも知れない。

遠子先輩は本を食べるほどこよなく愛している文学少女だ。これは比喩ではなく、文字通りの意味であり、彼女は本を食べることで空腹を満たしていた。そんな彼女の食事係……というわけでなく、どうやら様々な裏があるようです。

まず怪しいポイントとして、別荘に着いた時に告げる台詞を指定されている。これはどういうことなのだろうか。

そして、メイドの魚谷さんが謎の歌を歌っている……。その歌が中々に怖い。

さらにさらに街に出れば、別荘では過去に大量殺人が起きているという話を聞く。

……怪しい。まとめると、過去に大量殺人事件が起きたという別荘に、無理矢理連れて行かれ、別荘に着いた際の台詞は指定され、メイドは怪しげな歌を歌っているという、これでもかとミステリ的不穏要素が詰め込まれている。

裏方でこの物語を操っているのは、姫倉麻貴であることは明らかです。なんせ心葉を連れてきたのは彼女の執事でありますし、別荘を現在所有しているのは彼女なのです。

さて、一体何を考えているんだか。

 

今回の題材となっている作品は泉鏡花『夜叉ヶ池』。美しい情景描写が印象的な物語です。青空文学で読めるので読んでいない人は是非。

とてもざっくりとしたあらすじは、「洪水が起きないように、湖に封じられた竜を沈めるために、一日に三度鐘を突いて村を守る夫婦。しかし、村人はそんな夫婦の妻を生け贄に捧げて殺してしまう。そして、夫が鐘を突くのをやめた途端、村は洪水に飲まれてしまう」……誰も報われない、あまりに悲しい物語です。

さて、今回に考えなければいけないのは、この物語が一体どのように関わりを持ってくるのか? という点です。

大切になってくるのは、あらすじには書き切れなかった登場人物達の心の機微や、関係性が非常に重要になっていきます。

登場人物を書き出してみると、『夫』と『妻』と『湖に封じ込められた竜』と『村人(達)』と言ったところでしょうか。これまでと同じように、それぞれに当てはまる人達がいます。

ここで思い出していただきたいのが、八十年前に起きたという大量殺人事件。一見関係ないように思われる二つですが、文学少女の想像によって結ばれていきます。

過去に起きたあまりに悲しく残酷な物語の全容が、解き明かされていくわけです。

 

ここで改めて姫倉麻貴の目的を考えてみましょう。

彼女がやったことと言えば、遠子と心葉とメイド(上には書き切れていませんが、彼女が呼び出しました)を過去に大量殺人が起きた別荘に呼び出し、心葉にはある程度の台詞の指定を行いました。

……うん、だから何だよ。

しかし、この物語を理解するためには彼女の行動を順序立てて整理することが不可欠です。

これから、この作品を読もうという人はその辺を注意深く読み進めることをおすすめします。