※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
修学旅行
情報
作者:渡 航
イラスト:ぽんかん⑧
ざっくりあらすじ
文化祭の一件からクラスメイト達からの冷たい視線に晒されることになる比企谷八幡。それでも修学旅行の時間というものはやって来て、葉山達から相談を受けることになる。
感想などなど
修学旅行。
いつものクラスメイト達と、日々を過ごす街から飛び出して旅行する一大イベント。ブログ主も田舎から東京へ向かう新幹線に乗り込んで、楽しい数日を過ごした思い出が無きにしも非ず。
修学旅行において、学生達をワクワクさせるものは手近にある非日常ではないか、と推察する。クラスメイト達と学校ではない場所で一夜……いや数日を共に過ごすという経験……教師に隠れて夜更かしするというドキドキ……全く知らない外の世界で見る風景……お土産も買いすぎてしまうというものだ。
しかし、ぼっちにとっては辛すぎるイベントであると言わざるを得ない。
修学旅行では何をするにおいてもグループによる行動が求められる。一人では危険であるし、問題が起きた際には対処が行いやすい。個々で管理するよりも、班員の世話は班長に任せ、教師が指示を出す相手は班長だけにすることで教師としての手間を減らすという意味合いもあるだろう。
その班に馴染むことのできなかった人間はどうなるか?
まず大前提として何をするにしても楽しくない。話が続かず気まずい沈黙が流れる空間に人は長くいれないものだ。そういう時に限って、流れる時間というものは遅く感じる。楽しい時間は早く過ぎるという感覚のトリックの残酷さを身をもって感じることとなる。
社会人になると修学旅行なんていう特殊な旅行なんていけなくなる、これから修学旅行に行くという方は、形態はどうであれ楽しむための努力をすることをおすすめしたい。
そんな修学旅行に挑むことになったぼっちこと比企谷八幡。ぼっちの属性に文化祭の騒動を経たことで嫌われ者としての看板が付与された。相模というクラスのナンバー2の行動力――いや、文化祭でそれを発揮しろ――により、比企谷=ヤバい奴という印象が色濃くなっていた訳だ。
葉山は真実を知っているが、そのことを誰かに話そうとはしないし、かくいう由比ヶ浜もそうである。戸部は何かとヤバいという代わりに「マジヒキタニじゃね?」という台詞を口にする。こういうのはイジりとして許容される空気感が形成されたクラスなのであった。
そんな状態のまま修学旅行に突入することになる。
そんな中で、奉仕部に依頼が持ち込まれる。なんと依頼主は戸部で、依頼内容は『海老名に告白したいから何とかして』というもの。
戸部は告白して振られるとダサいと口にする。
この台詞でブログ主は戸部に対する好感度が一気にマイナスにまで振り切ってしまった。告白をする時点で、これまでの関係性なんてぶっ壊れる程度の覚悟はしろ、というのがブログ主の持論である。
「好きです」という思いを口にしたということは、その先の関係性というものを求めての発言だろう。相手がその思いを受け取ったということは、それまでの関係性は過去になる。周囲の人からの反応は変わるだろう、これまでとは過ごし方も変わるだろう。振られた場合も、方向性は違うが同じような流れを辿ることになる。
それを求めたのは、思いを告げる貴様だったはずだ。
……まぁ、だからこそ告白は恐いという表現がされるし、社内恋愛はもっての他で、恋愛がサークルを壊すなんてことが怒るのであった。
この第七巻でのポイントは、その告白によって壊れる関係性である。
人によっても違うだろうが、いつもを過ごすグループの中にカップルができた場合、可能な限り二人で過ごすことができるように気を遣うだろう。そうしないにせよ、二人に向けられる視線というものは変化してしまうはずだ。
次第に二人だけで過ごす時間というものが増え、グループは空中分解。
「その程度で壊れる関係性?」
……葉山隼人達のグループが辿ろうとしている道筋こそがこれだ。どんなに否定しようとしても、『その程度で壊れる関係性』でしかないのだ。
それを嫌がる人がいた。
その人は『今を壊したくない』と口にする。『今が楽しいんだ』と。そして依頼をするのだ。『楽しい時間を過ごしたい』と。
それに対して八幡は、彼にしかできない合理的な方法によって、関係性を保とうとする。
ブログ主は言いたい、罪悪感と共に得た幸せな日々は本当に幸せなのか? と。
文化祭の時と同じく、八幡が演じるはヒール役、しかし大きく前回と今回では違う点がある。それは奉仕部としての理念『あくまで手助け』が今回は欠けているのだ。
前回ラストの相模への毒舌は、彼女が自らの意思で動くために言ったことだ。今回は違う、ただ比企谷一人が傷つくだけ傷ついて、迎える結末は何も変わらない現状維持。雪ノ下が一番嫌う結末だ。
さて、どうなる奉仕部。変わっていく現状へ、どう向き合う。