まず最初に
第九話。第三巻に無事突入して、ライノというアメリカ産アニマが出てきてくれました。明るい性格の彼女のキャラの濃さは、誰にも負けていませんね。
今回は説明的要素が大きく、第三巻の導入と言えましょう。明るいながらも何処か影を感じるライノに、アメリカの怪しげな動き……今後への繋がりも意識しながら、原作既読者らしく感想・解説を書いていきましょう。
用語・人物解説
鳴谷 慧
- 上海奪還作戦に対して並々ならぬ熱意を持つこととなる。
- ザイのシミュレーションゲームを何回やっても一度も勝てなかった男。
- 明華とのデートに行ける日は来るのだろうか……。悲しいなぁ。
グリペン
- アンフィジカルレイヤー(後述)にて記憶を取り戻す。はて、記憶とは。
- 彼女は「ザイが現れた理由」「ザイの正体」「自分の正体」などの全てを、実は知っている。
- 彼女が全ての鍵を握っている訳だが、アニメで伏線回収されないのは悲しい。
ウィリアム・シャンケル
- DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)のプロジェクト・マネージャー
- 学生時代からの友人(?)であるらしい、この時点で二年ぶりの再開。
- 専門はAIであるらしい。膨大なデータと、データの処理を行うプログラムでアニマの思考回路は説明できると考えている。
ライノ
- F / A - 18E - ANM ライノ
- 明るく溌剌な性格であり、押しの強いキャラクターと言える。
- 周囲にアニマがいない状況を寂しく考えているようだ。
ブロウラー
- FQ150-Aブロウラー 無人戦闘機
- 無人戦闘機であるため、ザイの動きにも付いて行くことが出来る。
- これまでの膨大なEPCMのデータにより、相手のEPCMに応じて動きを決めるようプログラムを組み込まれている。
アンフィジカルレイヤー
- ザイによって作り出された謎空間、ここでは時間も空間もぐちゃぐちゃになる。
- グリペンはこの中だと記憶を取り戻せるらしいが……。
- この空間で飲み込まれた町や船は、姿が消える。出現には予兆がないため、防ぎようがない。
注目すべきポイント
アンフィジカルレイヤー
いきなり謎空間での始まり。あっさりと終わるし、意味不明だろうが、超重要シーンである。全ての謎を知った後このシーンを見れば、隠された言葉の全てが何となく分かってしまう。
と、そんな原作未読者置いてけぼりの感想は置いておき、アニメの感想を書こう。
まずこの人がおらず、白く靄がかかったような世界(=アンフィジカルレイヤー)のシーンで分かることをまとめよう。
- アンフィジカルレイヤーに接し過ぎると、心が保てなくなる。
グリペンの台詞より抜粋。まず、この白い世界はアンフィジカルレイヤーという名前であることが分かる。ちなみに八代通遙もシャンケルも、この世界のことは把握していない。誰かが付けた名前なのだろうが、その誰かは誰なのだろうか。
また、接し過ぎると心が保てなくなる……と言われているが、成谷慧は決して自ら進んで接している訳ではない。最期には夢落ちだったことが分かる。では、この世界とは一体どこに存在しているのだろうか。
- 「ジョハリの窓が開いている」「慧はそこから落ちてきてしまった感じ」
「成谷慧がどうしてここに来てしまったのか」の答えが、上記グリペンの台詞である。
要約すると(?)、ジョハリの窓が開いてしまっていて、慧は偶然そこから落ちてしまったようだ。
……うん、よく分からない。
『ジョハリの窓』とは心理学の用語であり、「コミュニケーションにおける自己の公開と円滑な進め方を考えるために提唱された考え方」である(Wikipedia :ジョハリの窓 - Wikipedia)。簡単にまとめると、自己というものは『公開されている自己』と『盲点の窓』と『秘密の窓』と『未知の窓』の四つに分類できるということらしい。
その考え方から推察するに、『未知の窓』(=誰にも知られていない自己)を知ってしまったがために慧はこの世界に来てしまったのでは? と自分は考えたが、皆さんはどう考えるだろうか。
- グリペンは全てを知っている。
グリペンが普通のアニマではないことは、はっきりしている。成谷慧がいないと飛べないことが一番分かりやすいだろう。
そんな彼女は全てを知っている。では、何故か? 一体何を知っているのか?
是非とも原作を読んで欲しい。
明華が負けヒロインと言われる理由
久しぶりの休み、明華をピクニックに誘った成谷慧。その気遣い、心の底から褒めてあげたいし、純粋に二人のデートを見てみたい気もする……がそんな期待はあっさりと裏切られることとなった。「ばかぁぁぁぁぁぁ」と罵られても仕方がないだろう。
犯人は言わずもがな、八代通遙である。目的はこの時点で分からないが、国防に関わることならば仕方がないだろう。
話を聞いていくとこれから向かうのは、厚木海軍基地……場所は神奈川県である(厚木海軍飛行場 - Wikipedia)。主人公のいる小松基地……石川県から新幹線でおおよそ3時間といったところだろうか。まぁ、主人公達は飛行機で一飛びで、もっと短い時間で住むはずだ。といっても今日中に戻って来てピクニックに舞い戻ることは不可能。
明華の嫌な予感は的中してしまった。悲しきかな。
厚木基地にて。
厚木基地にてアメリカから来たウィリアム・シャンケルから作戦の概要を聞かされる。作戦の名前は『上海奪還作戦』、内容は名前の通りである。
しかし、問題が存在する。
- 上海にどれほどのザイがいるのか分からない。
先日の魚釣島では百は下らない数のザイが現れた。それだけでも途方もない脅威だが、加えてクラスター弾という対空兵器も大きな脅威として立ち塞がる。多くが謎に包まれたザイがどのような手で来るのかが判断できないのだ。
これまで防戦だけしかできなかった人類が攻勢に転じる……というシチュエーションは燃えるが、経験のなさが何よりも問題だということを理解して欲しい。
- アニマがアメリカと日本を合わせても5体しかいない。
アニマは日本の4体(グリペン、イーグル、ファントム、バイパーゼロ)とアメリカの1体(ライノ)しか存在しない。人が乗った戦闘機はザイに対する対抗手段にはならないことは、HiMATやEPCMの話から分かって貰えるだろう。同様の理由でミサイルも役に立たない。
つまり、ザイとまともに戦える戦力はアニマ5機しかないということを意味する。果たしてそんな状況で戦えるだろうか。どうやら、シャルマには対策があるようだが……
秘密兵器 ブロイラー
シャルマのチームが開発したという無人戦闘機ブロイラー。無人戦闘機であるが故、人が乗っているとできない動き(HiMAT)にも対応できる。さらに、これまでの数億のEPCMのパターンを解析することにより、相手のEPCMから動きを推測することができるようになったらしい。
このブロイラーが12機とアニマ5機で上海奪還作戦に挑むというのが、アメリカの呈示してきた作戦であり、日本もそれに乗った。その打ち合わせのために八代通遙もやって来たということである。何故、グリペンと慧も連れてきたのか、という疑問を抱くだろうが、どうやらシャルマのお願いであったらしい(アニメで説明は省かれている。詳しくは後述)。
その作戦に八代通遙は乗り気ではないらしい。グリペン曰く、「倒される前提で戦闘機を投入することを嫌っている」ようだ。ただの兵器だと考えるシャルマとは全く違った価値観を持っていることが見て取れる。またグリペンにとっても、心の感じられない(=冷たい感じ)ブロイラーと共に行う作戦はやりにくいことが分かる。
ライノとの会話
アメリカ産のアニメ・ライノ。彼女に対して、皆さんは一体どのような印象を抱くだろうか? 明るい、押しが強い、脳天気……大体このような感じだろうと思われる。しかし、それは真実の顔なのだろうか。
さて、彼女の置かれている境遇というものを少し想像してみよう。
- 彼女の周囲にはアニマがいない。
慧に他のアニマの話を聞くことからも、彼女が抱く複雑な感情が分かって貰えるのではないだろうか。軍隊にいるということからも、同世代の友人はいないだろう。まぁ、彼女は生後1年にも満たないらしいが。
- アメリカ軍の合理主義に触れてきた。
「外に敵がいるのに、内に敵を探す」アメリカはザイとの戦いのことを考えながら、勝った後の世界のパワーバランスも考えている。例えば、日本のアニマ4機とアメリカのアニマ1機の戦力差のことだ。
端的に言ってしまおう。アメリカは焦っている。アニマの開発に膨大なお金が費やされていることをライノは語ってくれた。そんなアメリカが作り出したのがブロイラーなのである。「ブロイラーは他国のアニマに対応するために作られた」と言われた方がしっくり来るのは自分だけではないだろう。
- アメリカは実用主義である。
シャルマと八代通が仲良くできない原因の一つであると言える。シャルマもといアメリカにとって、アニマは道具。機械は機械。ライノを見て、「可愛い」とはまず思わないのだ。
シミュレーションゲーム
シャルマがザイの行動パターンから作成したシミュレーションゲーム。緑は民間人、青が軍隊であり、これらを操作して「ザイの撲滅」「10年以上生き残る」のどちらかを達成すればゲームクリアである。
1回目、現実に習い(各国が疑心暗鬼になり、戦力を出さなかった)、初期の段階で戦力の全力投入を図った。しかし、失敗。
2回目、戦力を後方に下げ、集中させる。しかし、失敗。
3回目、以下略。
慧は一度も勝てなかった。理由は何個もあるが、『ザイが的確に都市を狙ってきた』『ザイとの単純な戦力差』『ザイ戦力の回復力の高さ』などなど。
ではグリペンにやらせるとどうか。
驚くことにグリペンは10年間人類を生き残らせることに成功させたのである。そんなグリペンのデータを解析させてくれと、シャルマは懇願する。
アニメでは描かれていないが、これこそが慧とグリペンが呼ばれた理由である。どうやらグリペンのデータ解析を行いたかったようだ。
八代通遙の考え方
八代通遙はアニマは人のようなものであると断言した。協力させるためには、人のように教育を行う必要があると、決してデータを解析してプログラムで縛るべきではないと。
さらにはアニマとザイは違うと間髪入れずに明言してくれた。そんな八代通遙が個人的には好きだったりする。
最期に
上海奪還作戦という今後を左右する大きな作戦が始まっていく。そんな中、アンフィジカルレイヤーでの不思議なグリペンの台詞に、アメリカの不穏な動き。アニメ第九話にして物語が大きく動いて来た気がします。
11巻で完結する(現時点で出版されてないが、イラストレイターが断言している)ライトノベルの序盤の序盤なのですから、こんなものなのです。
個人的にはライノが可愛かったから大満足でした。どこか影を感じる演出もあり、原作未読者の感想も聞いてみたいものです。
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