※ネタバレをしないように書いています。
現界と虚界
情報
作者:日日日
イラスト:エナミカツミ
ざっくりあらすじ
虚界という異世界から、今いる現界へ怪造生物を呼び出して使役する《怪造学》。伊依にその道に進むきっかけを作った仇祭遊と妙な形で再会を果たす。
感想などなど
伊依の一種、狂気とも思えるほど深い怪造生物への愛。人類と怪造生物が一緒に過ごすというあまりに大きすぎる夢を抱えた彼女は、とても優しく立派な人間だと思う。しかし、狂っていると感じてしまうのはブログ主だけではないだろう。
彼女が言っていることは、「世界から戦争をなくしたい!」「世界から虐めをなくしたい!」と同等のことなのだ。大きな理想を掲げるということは、それ相応の覚悟と実力が伴わなければ冷笑の対象となってしまう。
さて、伊依にはそれらがあるのだろうか。
そんな伊依が《怪造学》に傾倒するに至った経緯というものが、第三巻では描かれていく。その鍵を握っているのが、あらすじでも示した仇祭遊という少年だ。どうやら彼女に怪造学を教え、現界と虚界の扉を開く《門》と呼ばれる腕輪を与えたのは彼であるようだ。
つまりは彼女の怪造学に対する向き合い方というのは、彼の影響を受けたことは間違いないであろう。作中の回想で描かれる遊という少年は、心優しく明るい姿で描かれている。少なくとも、伊依の知っている遊は、そういう少年であった。
しかし、そんな過去を知らず第三巻を読み進めた読者は、彼に対してそんな印象を抱くことはないだろう。なにせ巷で最近起きている《門》と呼ばれる腕輪盗難事件の犯人が、遊であるのだから。
怪造学というのは、《門》を用いて虚界という世界と交信を行い、そこで見つけた怪造生物を呼び出し、使役する学問ということになっている。舞弓の武具といったような例外もあるが、一般的には《門》がなければ虚界と繋がりを持つことはできない。
《門》というのは希少価値がそれなりに高く、他人が使っていた《門》は別の人が使うことはできなくなっていく。つまりはなくしたからといって、すぐに新しいものを手に入れられるようなものではない。
そんな怪造学を学ぶ者にとって大切な《門》を、遊は奪って回っていた。
かなり悪質な事件であることは分かってもらえただろう。さて、そんな事件が起きる中、黙って座っていられない正義の味方がいた。そう、刀を片手に独自の武士道を突っ走る舞弓のことである。
証拠を探して犯人を追うような頭はないので、事件が起こる夜闇に紛れ、動き回って犯人を捜していた。
第一章から、そんな彼女と、犯人である遊がぶつかり合う。その勝敗は、戦闘力においてはかなり上位に君臨するであろう人外・舞弓……ではなく遊の勝利で幕を閉じることになることから、彼の強さというものも何となく理解できるのではないだろうか。
副題は『デンジャラス・アイ』というようになっている。直訳すると危険な眼? これまでの「アンダカの怪造学」の副題は、重要な役割を持つ怪造生物がその任を担うことが多かったが、第三巻も例外ではないのだろうか?
そんな予測をしつつ読み進める。すると冒頭からして嫌な想像をさせてくるシーンが続いてしまう。
遊が舞弓を倒すことができたのは、彼の右目《螺旋眼》の特殊な力――現実よりも遅い時間の進み方で、世界を見ることができる――ことによるものであった……嫌な予感というものが脳裏を過ぎってしまうのはブログ主だけだろうか。
本シリーズにおいて、不可思議な現象というものは全て怪造生物によるもので説明がついてしまう。すると遊の右目は一体何が起きてそうなってしまったのか? その情報が徐々に明かされるに連れ、安心よりも不安が募っていくというのは斬新な感覚であった。
第三巻、次々と明かされる新情報に脳が揺さぶられていく……楽しい作品であった。