工大生のメモ帳

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アンダカの怪造学Ⅳ 笛吹き男の夢見る世界 感想

【前:第三巻】【第一巻】【次:第五巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

現界と虚界

情報

作者:日日日

イラスト:エナミカツミ

ざっくりあらすじ

虚界という異世界から、今いる現界へ怪造生物を呼び出して使役する《怪造学》。学校総出で向かった合宿にて、伊依達のいるクラスだけが謎の空間へと誘われるように辿り付いてしまい……

感想などなど

第三巻にて、怪造生物に対する恐怖心を植え付けられることとなった怪造学の若き生徒達。その犯人である仇祭遊は、怪造のトップ達の色々な策略により、無罪放免と相成りました。

怪造生物との友好的な関係を築く、という世界平和と等しい夢を抱く伊依にとって、怪造生物に対して恐いという感情を抱く人々が増えるということは、吉と出るか凶と出るかの判断は今すぐにはでないとして。頭のネジがもう全部取れてしまったのではないか? と首を傾げざるを得ない怪造界トップの面々の様子を見る限り、伊依の未来は暗黒のように思われます。伊依の片目を奪っていた《肉体道楽》なる最強最悪の怪造生物の存在も、状況の不穏さを加速させます。

そんな『アンダカの怪造学』も第四巻へと突入。怪造学のトップ、いわゆる学会のメンバー達の名前その他諸々も登場し、伊依の住む空蝉荘の怪しき住居人、《虚無》と呼ばれる少年の背景もちょびっと描かれながら、大きく状況は進展していく。

とりあえず、第四巻で一区切りといったところでしょうか。アニメ化するならここまで! って奴です。

 

怪造学という特殊な学問しか教育しない、あまりに奇妙な学校であるものの、普通の学園みたいに合宿なんてものがあるらしい。合宿に行ったとしても怪造学に関することしかしないだろうことは想像に難くないわけではありますが、読者としても伊依達にとっても楽しみだったことに変わりはないかと思われます。

しかしながら、伊依達が平凡に合宿を送られるはずがないだろうことは、エンタメであるが故の宿命。メタ的な読みでごめんなさい。

それでも、まず合宿の会場にすら辿り着けないとは思えなかった。乗り物はバス。数時間ほど変わることのない山景色に見飽きつつ、船を漕いで目覚めると、目的地であった殻蛇怪造高等学校に似ているような気がしないでもないという何ともいえない微妙な場所であった。

どう奇妙かと言えば、山の中であるのに動物の気配が一切ない。鳥の声、風が吹いて葉のこすれる音、何かが地面を踏みしめる音……それらが存在しない無音空間を想像してもらいたい。田舎民なら分かると思うが、きっとかなりの違和感を覚えるはずだ。

また、怪造が行えないというのも奇妙な点だと言える。合宿に来たのに、その目的が達成できないというのは本末転倒。ただ何もせず泊まりに来ただけという観光になってしまう。まぁ、観光しようにも山奥過ぎて観る場所は何もないわけだが。

さらに学校の生徒や教師達もおかしい。伊依達の学校もおかしさでは負けていないが、そのおかしさのベクトルが違っていた。なんというべきか、日本語を話しているのに会話が成立していないというか、もっと根本的な部分で違っているというか……。

そんな最中、学校の食料を食い荒らしているという怪造生物が目撃される。怪造が行えない空間であるはずなのに、どうして怪造生物が存在しているのか? 野生の怪造生物。しかし先ほども書いたように、この学校では動物の気配というものの一切が存在しない。どこからともなく現れたということになってしまう。

この場所は一体なんなのか。その答えを求めて、伊依や舞弓、遊は協力して挑んでいくことになる。

 

その裏では、学会が慌ただしく動いていた。こちらでは基本的に、爆川嫌凪の視点で展開していく。開催された報告会では、世界で七人しかいないとされる教授が全員集い、それぞれが現状などの報告を行っていく。

そこで様々な新事実が判明していくことになる訳だが、その中で特に印象に残る情報と言えば、虚界でも戦争を起きているということだろう。人も戦争を経験しているが、怪造生物も人の歴史と同じ道筋を辿っているようだ。

それにより虚界から現界へと呼ばれていないのにやって来ていたり、呼び出されて戻ることを拒絶する生物が登場するなど細々とした弊害が発生しているらしかった。

……それらの他の新情報――伊依達が失踪して、その場所に実は……といったような話も組み合わさって、読者は真相を悟っていくことになる。二転三転する展開は飽きがこず、シリーズを理解する上で重要なエピソードも詰まった第四巻。本シリーズが気になる人は、ここまで読むことをおすすめしたい。

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