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【漫画】ザ・ファブル(15) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

プロやからな――

情報

作者:南勝久

試し読み:ザ・ファブル (15)

ざっくりあらすじ

組長か若頭のどちらかを暗殺する依頼を受けた二郎が行動を開始した。その間、束の間の平和な年越しを過ごした佐藤達だったが――。

感想などなど

これまで見てきた殺し屋の技は、拳銃を心臓にズドンか、ナイフで首筋を切り裂くといったものがほとんどだった。明らかに他殺と分かる死体の数々を、これまでいくつも見てきた。

殺し屋はその存在を知られる訳にはいかないというが、これほどまでに死体が残っていればいずれ世に広まりそうなものだが……まぁ、その後の死体処理や根回しも含めて、殺し屋の仕事というものなのだろう。

今回、組長か若頭を殺すように砂川から依頼を受けた二郎と名乗る殺し屋は、どうやらナイフや拳銃といった武器を使う殺し屋とは違うらしい。冒頭、部屋の片隅に木片のようなものを設置し、ライトを当てて何かを育成し始めるシーンが描かれる。

そこから殺しの準備に三週間かかると語り、そこから二郎によるキノコ育成の様子が描かれていく。どうやらキノコを使った毒殺が、彼の殺しのスタイルであるらしい。わざわざ育成するということは、世間で出回っているような毒ではないことは想像できる。

しかも彼の語っていることを聞くに、殺害対象に応じて使用する毒は変えるようなので、毒生成の方法もその都度変えているのだろう。これぞファブルに所属する毒殺のエキスパートといったところか。

そんな二郎の殺しの腕の鮮やかさは、敵ながらあっぱれと言わざるを得ない。

 

ここまでの語り口で、二郎の暗殺は成功するということは何となく分かってしまったかもしれない。そう、二郎の暗殺はあっさりと成功する。三週間かけて作り出した毒は最高の形で作用し、暗殺対象は殺されたことにすら気付かずに死んだ。

ただし佐藤と洋子だけは、ファブルの何者かによって殺されたことに勘づいた。

そしてファブルが毒殺の証拠など残すわけがないことにも。

ファブルの顔役として二郎に仕事の話を通した山岡という男を、洋子は街中で見かけた。その殺し屋にしか分からない独特な雰囲気や空気感、かつて組織で見かけたことのある立ち振る舞いから、自分たち以外のファブルのメンバーが街に来ていることを察していた。

自分たちは長い休暇を貰って、普通の人の生活に溶け込んでいる。ファブルは互いに顔を合わせることのない完全分業制をとっている。山岡がファブルの顔役とはいえ、彼のことを知っている者はそう多くない。

佐藤達にとっては自分と同じ所属の同業者が起こした事件。首を突っ込むような内容ではない……しかし、お世話になった人が殺されて黙っておくのが人として正しいのだろうか。

しかも砂川は今回の殺人を皮切りに、組のトップに上り詰めるために動き出す。そしてファブルの顔役・山岡も、どうやらその騒動に一枚かんでくるようだ。どことも明確な同盟を結ばず、ただ依頼をこなすだけのファブルが、このように組の誰かに肩入れするなどあっていいのだろうか。

だが誰も山岡の行動を諫める者はいない。

 

佐藤達は山岡の一件にはさほど絡んでこない。

ただ山岡という人間の本性や考え方、二郎という毒殺のエキスパートのやり方に焦点が当てられて描かれていく。とくに山岡は他人の感情が分からない生粋のサイコパスであり、そこがエンタメとして大きな魅力となっている。

これまで殺し屋として活動してきて、恐怖を感じたことがない。恐怖と喜びは表裏一体だと語り、恐怖を感じたことがない自分は人生の喜びを感じたことがないとまで言葉は続いていく。

そんな彼が人生を楽しむために、人々の感情をもてあそび、殺し・殺されのドラマを作り上げる……いわば監督やプロデューサーのように、佐藤達の日常を壊してくる。これから佐藤達がどのように絡んでいくのかが楽しみな導入であった。

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