※ネタバレをしないように書いています。
鏡に答えはない
情報
作者:田中一行
試し読み:ジャンケットバンク 4
ざっくりあらすじ
雛形春人とのゲーム「ジャックポット・ジニー」に決着。金を奪われ尽くし、もう金を奪う手段はないところまで追い詰められていく。しかし、ゲームは予想外の方向へと向かっていた。意地と趣味の悪いゲームの向かう先とは……。
感想などなど
ここからのゲームは、敗北が死に直結する。
ただそれだけではない。ゲームに対して観客が存在するというのが、大きな特徴として挙げられる。これまでの戦いを制してきた実力のあるギャンブラーが、高度な頭脳戦を繰り広げるというのは、見ていて面白いのかもしれない。
そんな安全地帯から楽しむだけの金持ちにとって、今回の真経津 VS 雛形の試合はどのように見えたのだろう?
かくいうブログ主にとっての感想は、「伏線やフラグ回収といった物語としては面白いが、ギャンブルゲームとしての頭脳戦の完成度が低い」というものである。雛形春人というギャンブラーが持つ、相手の感情の機微を読み取る能力は最強だろう。しかし、その能力を使って勝ちに行くための ”頭” が、如何せん足りなかった。
なにせ今回のゲームは成立しているようで成立していなかったのだ。
6回カードを出し合って金貨を奪い合うのを1ラウンドとし、それを3回繰り返す。計3ラウンド目での金貨の枚数に応じて勝敗が決まる。互いに透明な砂時計をかたどったような室内に閉じ込められ、これまでのように相手のカードに直接干渉するような技は使えない。
つまり雛形のような相手の心を読めるような人間にとっては、これ以上ないほどに力を発揮できるゲームだといえる。だからこそ、雛形は相手の金貨を奪えるだけ奪って、自身の金貨を増やしていった。
それだけで勝てると信じて。
ゲーム「ジャックポット・ジニー」にはとても意地が悪いゲームだ。
このゲーム、どちらかがほぼ確実に死ぬ――死ぬとまではいかずともかなりの苦しむ――今回は力量差がありすぎたが、互いに拮抗していて場合、二人ともが死の境をさまようこととなる。その苦しむ過程を安全地帯からほくそ笑んで楽しむという構成になっているのだ。
詳しいルールについては三巻の感想に書いているので、分からない人は読み返して欲しい。隠された裏のルール「室内での食事禁止」や「自身の金貨の清算が終わり、相手の金貨清算中には外に出ることが出来る」といった内容は書いていなかったが、反省はしていない。
だが、今回はそうはならなかった。
改めて「安全地帯から楽しむだけの金持ちにとって、今回の真経津 VS 雛形の試合はどのように見えたのだろう?」という問いに答えたい。
頭脳戦を期待していた金持ちがいたならば、今回のゲームは面白みを感じなかったかもしれない。だが、無様に苦しんでいる様を見たい者達にとっては、これ以上ないエンターテインメントとなっただろう。
自分の描きたい姿を相手に投影し、それ以外の部分に目を向けようとしなかった雛形。これは彼にとって負けるべくして負けたゲームだった。
このゲームをきっかけに、御手洗暉にとっての新たな目的が出来たという意味では、重要な意味を持つ死だったかもと思わなくもない。ジャンケットバンクの世界観が、いよいよ牙を出してきたゲームであった。