※ネタバレをしないように書いています。
悪魔を宿して悪魔を狩る
情報
作者:藤本タツキ
試し読み:チェンソーマン 9
ざっくりあらすじ
先の戦いで多くの者が死んだ。それでも迫り来る銃の悪魔との決戦を前にして、アキの心は揺れていた。あれほど憎み、復讐に燃えていたにも関わらず。そんなアキに明かされる銃の悪魔に関する衝撃の事実、未来の悪魔が見せる ”最悪の未来” ――全ての運命がデンジを襲う。
感想などなど
銃の悪魔……かつてアキの目の前で全てを奪っていった最も恐れられている悪魔である。その強大さは一国の軍事力に匹敵するのでは、と思われる。それは銃の悪魔の肉片を吸収しただけで、悪魔が超強化されることからも分かるだろう。
そんな銃の悪魔攻略するために、早川アキは特異課に入った。デンジはマキマに「銃の悪魔を倒したら、何でも言うこと聞いてあげる」と言われたことが、色々と頑張り始めるきっかけになっている。パワーは良く分からん。
そんな最終決戦と呼ぶに相応しい戦いが始まろうとしていた。それが則ち、デンジ達にとっての ”最悪の未来” と直結していくことを予想できる者などいただろうか。
まぁ、マキマという女を、裏表のない信頼できる人間だと思っている読者は少ないことだろう。デンジに向けている言葉を額面通りに受け取れないのは、彼女が人を殺している時と変わらない無表情がずっと張り付いているからだろうか。
この第九巻ではそんなマキマの正体と、未来の悪魔がアキに訪れると預言(預言というよりは確定した未来と言うべきか)した最悪の死というものが描かれていく。その描き方、演出の上手さが最高なのだ。
第九巻は先の戦いでボロボロになった第四課の状況説明から始まっていく。アキは左腕を失い、パワーは毎晩のように悪夢にうなされていた。天使は両腕を失い、サメと暴力は死んでいった。戦いの中心にいたはずのデンジは元気そうで何よりである。
ただその元気はどこかいつもの破天荒さが抜けている。いつも一緒にバカしていたパワーは、「一緒に風呂入ろう」とか、「トイレに着いてきて」とか甘えてくるのだから、かなりやりにくいのかもしれない。
つまり状況としては芳しくない。戦いに勝ったのに勝った気がしない重苦しい空気が漂う。そんな状況を鑑みてだろうか、銃の悪魔討伐任務に関して、アキは岸部隊長に参加しないことを告げた。
彼の脳裏には地獄でなすすべなく倒されたパワーとデンジの姿が写る。そしてはっきりと「怖じ気づきました」と言葉にするアキ。かつては悪魔を憎んで憎んで仕方のなかった彼が、怖じ気づいてしまう程にデンジとパワーの存在が大きくなってしまったのだろう。
時間をかけてゆっくりと傷を癒やしていく。アキが北海道へ墓参り行く際には、すっかり元気になっていた。が、アキの左腕がなくなっている姿を見るだけでも心にくるものがある。
「毎年墓行くとヤなことばっか思い出すから憂鬱だったんだ」
「でも今回はお前等がうるさくて浸る暇もなかったよ」
というアキの台詞に読者も救われる。
あぁ、このまま三人で雑魚の悪魔を討伐するだけの平和な日常が続いて……くれるはずもない。最悪な未来は避けることができないのだ。
銃の悪魔討伐に不参加を表明したアキ達は、マキマさんに呼び出された。そして「デンジとパワーだけは参加させる」と告げられる。アキはあくまでデンジ達の世話係、上司はマキマであるということを失念していた。
デンジ達だけが戦って、アキは戦わないという選択肢はない。一度は怖じ気づいた銃の悪魔との戦いと向き合うことになり、そして告げられる銃の悪魔の真実。
「銃の悪魔はすでに倒され拘束されているの」
……え、嘘だろ……とリアルに声が出た。どうやら銃の悪魔の一部を、主要各国が保持しているらしい。いわば各国に対する抑止力としての役割を果たしているのだ。だとするとこれから行う銃の悪魔討伐は何だ? という話になる。
これから戦う銃の悪魔は、どこかの国が所持している銃の悪魔。それを強奪するという一種の戦争が執り行われようというのだ。憎んでいたはずの悪魔を使役する人間の存在。
アキは一体、これまで何のために戦って来たのか。分からなくなってしまう。
そんなアキの思いとは裏腹に、世界の情勢は慌ただしく動いていた。日本が仕掛ける銃の悪魔討伐は既に知られてしまった。世界を巻き込む大きな戦いに巻き込まれてしまったデンジ達が辿る最悪の未来を、是非とも見届けてあげて欲しい。
悲痛な叫びと、人々の願いが相反するシーンのえげつなさ……印象に残るシーンや台詞の多い巻であった。